2023年7月21日金曜日

ビッグモーター契約不適合責任事件(勝訴的和解)

 


 今朝のニュース。俳優に迷惑がかかるからという理由で、ビッグモーターがCMを自粛すると報道していた。どうも違和感を感じる。

実際には5万円の修理代で済むところを、さらに板金を故意に凹まして修理代を10万円に増額して、保険金を請求していたと報じられている(5万円、10万円は話を分かりやすくするための仮の数字)。

これは立派な保険金詐欺である(詐欺に立派なという形容詞をつけることにも違和感があるが。)。犯罪である。金融機関に対するものであるから、日本の司法実務では重罪とされている。しかも組織的で悪質である。

いまのところ保険金の不正請求などとマイルドに呼ばれているが、実態は組織ぐるみの詐欺犯罪事件である。そのうち端的にそう呼ばれるようになるだろう。

それなのにビッグモーターの対応は甘い。企業の危機管理がなされていないと感じる。ただちに経営陣が謝罪して、経営体制を刷新し、営業をしばらく止めて、実態解明を行い、再発防止策を樹立したうえで営業を再開すべきである。

CMを自粛する理由も、「俳優に迷惑をかけるから」というのはズレている。「保険金詐欺に関する被害者や顧客、一般消費者に対する謝罪・反省」、「実態未解明、再発防止策の未樹立」などが理由のはずだ。

自身、ビッグモーターがらみでは2件ほど手がけた経験がある。1件は刑事事件の弁護、2件は民事損害賠償請求事件である。

刑事事件は、被疑者・被告人弁護。ビッグモーターの社員が人身事故を起こしたもの。被害者の怪我の程度が重かったか、過失の態様が悪かったかで、執行猶予がつくか実刑になるか微妙な事案であったと記憶する。

そうしたところ、同じ職場の同僚たちが減刑嘆願の署名を集めてくれた。刑事事件を起こした同僚に冷たい職場が多い。このときは、ビッグモーターは社員の結束が強く、よい職場なのだなと感じた。署名の効果かどうか分からないが、判決には執行猶予がついた。

民事損害賠償請求事件は、購入者側から依頼されて、ビッグモーターに対し契約不適合責任を問うたもの。依頼人が購入した中古車は、購入した翌日には動かなくなった。会社側の責任は明らかと思われた。

契約不適合責任は、文字どおり、販売/購入した商品が売買の契約内容と適合していないという責任である。以前は瑕疵担保責任と呼ばれていて、近時、民法改正がなされた。法改正から間もない時期の事件だった。

ビッグモーター側には大阪の弁護士がつき、責任を烈しく争った。理由は、中古車には点検により分かる瑕疵と点検によって分からない瑕疵(たとえば、エンジン内部の損傷)があり、本件は後者であるという。

また、ビッグモーターでは、このような場合のために購入者に損害保険契約を勧めていて、当方の依頼者がその契約締結を断ったのだから、こちらが悪いともいう。

物には特定物と不特定(種類)物がある。利休が愛した茶器などは2つと存在しないから特定物の典型。工業生産で多数製造されている自動車(新車)などは不特定物の典型。

では中古車は?従来の理解によると、中古車は他におなじものがないという理由で特定物だったと思われる。

民法改正の際の審議内容を調査してみた。現代社会において中古車などは探せばほぼ同等の代替品がみつかる。つまり、不特定物・種類物ではないだろうか。そのような場合に瑕疵担保という考えは馴染まない。そこから契約不適合責任という考えが導きだされた。このような審議議事録を証拠として提出した。そして、法改正過程の議論に照らし、本件中古車には契約適合責任が適用されることが予定されているはずだと主張した。

損保に加入しなかったから購入者側が悪いという議論も乱暴な議論だ。ビッグモーターのやり方は、会社が負担すべき契約不適合責任による損害を消費者側の保険料負担で回避しようと言うものである。不当である。

ビッグモーターは多数の中古車を転売して利益を得ているのであるから、そのなかに一定数含まれる不良品に対する対策をすることができる。しかし、いち消費者にすぎない原告にそれを強いるのは困難である。などと主張した。

結果、裁判官は、ビッグモーター側の言い分を一蹴した。ただちに和解が成立し、こちらの請求が全額認められた。

乱暴な商売のやり方に、義憤を感じるとともに、ビッグモーターの行く末に危惧を感じた事件だった。さいきんの報道をみていて、やはりこういう事態になってしまったなぁと思う。

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