2023年7月11日火曜日

賭け

 



 人は2種類にわかれる。宝くじを買う人と買わない人だ。ぼくは後者である。

賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する(刑法185条)。常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。賭博場を開帳した者は、3月以上5年以下の懲役に処する(同186条)。富くじを発売した者は、2年以下の懲役又は150万円以下の罰金に処する(同187条1項)。

賭博は犯罪である。賭博とは、偶然の輸贏(ゆえい)にお金をかけること。偶然の輸贏とは、当事者において確実に予見しえない事実に関して勝敗を決することをいう。知人・友人間でおこなう賭け麻雀も賭けゴルフも、賭博であり犯罪である。金額の多寡を問わない。

ところが、政府・自治体がこれをやれば犯罪でなくなる。競輪、競馬、競艇、宝くじ等、公営ギャンブルである。

人間の性(さが)として、ときどきギャンブルをして、日頃の憂さを発散しなければならないらしい。そうであれば、どこぞの親分さんがやるより、公営でやるほうがマシ(弊害がすくない)という考えだろう。

この考えであれば、月に○回までとか、年間○○円までとか制限をかけてもよさそうなものであるが、そのような制限をおこなったとはきかない。

依存症になってしまっている人がすくなくない。「連敗をつぎの勝負で回復できる」と考えるようになると、かなりマズイ。

公営だろうと、ギャンブルはギャンブル。本来、犯罪である。さいきんのテレビCMなどのあおりかたは度がすぎてはいやしまいか。

どこぞの親分さんがやるものであろうと公営ギャンブルであろうと、掛金の20~30%をまずは胴元(主催者)が抜く。つまり、賭けをする人に戻ってくるのは70~80%である(いわゆる還元率)。したがって、勝率1%のギャンブルを100回やっても、掛金を100%回収することはできない(確率論的には)。

宝くじを買う人にそういうと、自分は夢を買っているのだらかよいのだという。この理屈をいいだせば、負けを認めたようなものである。そして宝くじの高額当選者が幸せになったという話も聞かない。

自己破産による免責という制度がある。免責が受けられれば、借金が棒引きになる。しかしギャンブルでできた借金は免責の対象とならないとされている。小づかいの範囲内でやっているかぎりは免責が認められる。しかし借金してギャンブルをするようになると微妙だ。

当事者において確実に予見しえない事実に関して勝敗を決することをギャンブルというのであれば、一般の訴訟もじつはギャンブルである。

法律相談の結果、われわれは勝ち筋(勝ち目が70%程度以上あること)、負け筋(勝ち目が30%程度未満であること)、5分5分とあたりをつける。

相談者が100%真実を語るものではないこと、証拠が100%そろうことはないこと、相手方の主張や証拠が100%は予見できないこと、相談を受けた弁護士の判断が100%ただしいことはないこと(弁護士の判断と裁判官の判断が異なることがあること)等により、勝敗予測は100%確実というわけにはいかない。おそらく将来的にAIが行うことになっても、そこは変わらないであろう。つまり、訴訟はすべてギャンブルである。

勝ち筋の事件については、訴訟をすることを勧める。負け筋の事件については、あきらめることを勧める。おなじギャンブルでも、勝ち目が乏しい事件に賭けるのはやめたほういい。

しかし、40年の弁護士経験に照らし、負け筋だと判断したにもかかわらず、異をとなえる方がときにおられる。

正義はかならず勝つとして、自分が勝ったときのことしか思い浮かべられない(水戸黄門や遠山の金さんの見過ぎである。)。いやいや負け筋ですよというと、宝くじを買ったつもりでやりたいとおっしゃる。こうなるとお手上げである。

というわけで、人生においてギャンブルをやらないし、仕事でもあまり負け筋の事件はあきらめるよう勧めている。リスクの高い賭けをしない、安全運転型の人生である。

が、ひとつだけ例外がある。山である。山登りにもリスクがある。遭難件数は年間3000件ほど。1日あたり8人程度遭難している計算になる。登山人口は100万人弱らしいから、単純計算で年0.3%程度のリスクだろうか。

年間に25回登るとして7.5%のリスク。10年で75%か。それなりのリスクである。さらに、北アルプスの岩稜地帯にもよく行くし、冬山にも登るから、一般よりはリスク高めだろう。

知人・友人からも危険だからやめたほうがいいと忠告をいただく。ありがたい。しかし、山の魅力はリスクをうわまわる。リスクを恐れて山に登らない人生はもはや人生と呼べない気がする。そしてそれなりに慎重に行動しているつもりだ。

例年この時期は、大雪山の縦走をおこなっている。1日目の宿泊地は白雲岳避難小屋である。

ことしも準備万端、さあでかけるぞという気持ちであった。ところが出発の2~3日前から宿泊地周辺にヒグマの親子がウロウロしているという情報が。そして宿泊自粛要請(その後に、宿泊禁止令)がだされた。

1つ目の写真は昨年撮影したもの。白雲岳からキャンプ地までおおう雪渓上をキタキツネが歩いている。2つ目の写真は一昨年のもの。2日目のキャンプ場ちかくで撮影したもの。その距離100メートルほど。ヒグマがその気になれば逃げ切れない。

ヒグマも人間を恐れているので、むやみに襲ってくることはない。しかし突然の出会いは危険だ。クマだって、テンパると、なにをするかわからない。子連れの母クマとなると、もっと危険だ。

やむなく今年の大雪山縦走は中止。あまりにリスクが高すぎる。

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