2023年7月4日火曜日

ある共有物分割請求事件(和解)

 


 ある共有物分割請求事件が和解により解決した。

ある建物を兄弟が相続により、2分の1の持分ずつ共有取得した。そこで兄のほうが相続前から事業をしていた。弟のほうは無料で共有持分を譲ると言っていたが、相続のほうがもめたので前言を翻し代価として1600万円を寄こせと言い出した。

兄から依頼を受けて、共有物分割請求裁判を提起した。

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる(民法256条1項本文)。共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる(258条1項)。

この場合、分割のしかたは3通り(同条2項3項)。
①共有物の現物を分割する方法。
②一方の共有者に債務を負担させて、他方の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法。
③強制競売、競売代金の分配。

たとえば、共有物が宅地100坪とかであれば、50坪ずつ分筆して分けることができる。現物分割である。本件では建物だから、現物分割はできない。

競売は建物を強制的に第三者に売却して、代金を半分ずつ分ける方法である。本件ではそこで兄が事業をしているので、競売にもできない。

そこで残るのが②の代償分割の方法である。兄が弟の共有持分を取得する代わりに、代金を支払うというもの。弟の持分を買い取るようなものだ。

問題はその代金の額である。こちら(兄)は市町村が行っている固定資産税評価にしたがい80万円を主張し、相手方(弟)は1600万円を主張した。

弟は過去10年分の建物使用料も請求してきた。兄は使用貸借によるものであるから、使用料を支払う必要はないと反論した。

それならということで、こちらは建物の修繕代をこれまで3度負担しているので、それを負担せよと主張した。相手方は不要な工事であり、負担する必要はない。むしろ建物の構造を弱くしたなどと反論した。

簡単に終了するかと思いきや、10回ほど弁論や和解協議を重ねることなった。最後は、裁判所が書面による和解案を提示した。

書面による和解案は判決ではないけれども、ほぼ判決のようなものである。飲むしかない。蹴ったとしても、おなじ内容の判決がでるだけである。

裁判所の和解案は、①使用貸借の成立を認め、②修繕費の請求を否定し、③代償金250万円を支払うというもの。

こちらが考えていた額より高額だったが当方は受諾した。相手方は受諾を相当しぶった。いちばんのひっかかりは使用貸借の成立を認めた点だ。

その根拠として、被相続人に対する賃料の支払いが認められないかぎりというくだりがあった。そのため、過去にさかのぼって、賃料の支払いのないことの確認を求めてきた。

ふつうは、ないことの証明は「鬼の証明」といわれる。殺人事件で、殺したことの証明はできても、殺していないことの証明はできない(不在証明=アリバイの立証はできる。)。

よく捜査官が被疑者に対し犯人でないなら殺していないことを証明しろなどとやっているが、不可能を強いるものである。そのために立証責任が存在する。殺人を行ったことは捜査側が立証しなければならない。

本件では、兄の事業の確定申告書の損益計算書を提出することにした。損益計算書には賃料の項目があるから、賃料を支払っていれば、そこに記載があるはずだ。しかし、記載はなかった。

これによりようやく和解解決することができた。和解にも勝ち負けはある。こちらは80万円→250万円であるから3倍。あちらは1600万円→250万円であるから6分の1以下である。当方の勝訴的和解である。

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