2021年8月2日月曜日

出羽三山ー月山・湯殿山

 
(月山)


(ハクサンチドリ)


(山桜)


(湯殿山神社鳥居)

 八日、月山に登る。木綿しめ身に引きかけ、宝冠に頭を包み、強力といふものに導かれて、雲霧山気の中に氷雪を踏みて登ること八里、さらに日月行道の雲関に入るかと怪しまれ、息絶え身凍えて、頂上に至れば、日没して月顕る。笹を敷き、篠を枕として、臥して明くるを待つ。日出でて雲消ゆれば、湯殿に下る。
 谷のかたはらに鍛冶小屋といふあり。この国の鍛冶、霊水を選びて、ここに潔斎して剣を打ち、つひに月山と銘を切って世に賞せらる。かの竜泉に剣をにらぐとかや、干将・莫耶の昔を慕ふ。道に堪能の執浅からぬこと知られたり。岩に腰掛けてしばし休らふほど、三尺ばかりなる桜のつぼみ半ば開けるあり。降り積む雪の下に埋もれて、春を忘れぬ遅桜の花の心かわりなし。炎天の梅花ここにかをるがごとし。行尊僧正の歌のあはれもここに思ひ出て、なほまさりておぼゆ。総じてこの山中の微細、行者の方式として他言することを禁ず。よって筆をとどめて記さず。
 坊に帰れば、阿闍梨の求めによりて、三山巡礼の句々、短冊に書く。

 涼しさやほの三日月の羽黒山

 雲の峰いくつ崩れて月の山

 語られぬ湯殿にぬらす袂かな

 湯殿山銭踏む道の涙かな 曽良

 尿前の関の段で、そこが初折りと名残りの切れ目であり、市振の関までが宇宙めぐり、宇宙、太陽、月、銀河がテーマとなると書きました。

いよいよ日月行道の雲関を越えます。さすれば、日没して月顕れ、月の山となります。

月山は標高1,984メートルの日本百名山。山頂には月山神社があります。花の百名山にも選ばれており、選定理由となった花はウズラバハクサンチドリ。

俳諧の求道者である芭蕉は、他の分野の求道者にもつよい親近感を覚えています。『笈の小文』の冒頭、つぎの文があります。

 つゐに無能無芸にして唯此一筋に繋る。西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、其貫道する物は一なり。

ここでは刀鍛治の求道者。刀を打つことにも道はあります。貫道するものは一つです。刀剣には国宝に指定された芸術品があります。月山の銘を刻んだ刀剣は機能性とデザイン性の高さで全国に広まりました。

山中で芭蕉たちをもてなしたのは山桜です。行尊僧正の歌は百人一首に採られています。

 もろともにあはれと思へ山桜 花より外に知る人もなし

湯殿山はいまでも「語るなかれ、聞くなかれ」、写真撮影禁止。世界遺産となった宗像大社の沖ノ島とかもそうです。秘すれば花なり(世阿弥『風姿花伝』)。

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