2021年8月3日火曜日

鶴岡・酒田


 


 羽黒を立ちて、鶴が丘の城下、長山重行といふ武士の家に迎へられて、俳諧一巻あり。左吉もともにおくりぬ。
 川舟に乗つて酒田の港に下る。淵庵不玉といふ医師の許を宿とす。

 あつみ山や吹浦かけて夕涼み

 暑き日を海に入れたり最上川

 庄内平野は、沖積平野で中央部を最上川が流れています。その南部に鶴岡、北西部に酒田が位置しています。

あつみ山は鶴岡の南西、吹浦は酒田の北にあります。句会を開くにあたり、地元の地名をおりこんでご挨拶です。あつみ→暑い、吹浦→吹く、涼み→涼しという縁語をつかってユーモアたっぷり。

最上川をおりこんだ句は、五月雨を集めた句につづいて2句目です。いずれもスケールの大きな句で、よほど最上川の大いさに感銘を受けたのでしょう。

暑き日には、①熱い太陽のこと、②暑い一日という両説あります。②でしょうか。暑き日々も、そろそろ立秋(8月7日)が近づき、涼しい風がふきはじめています。

先に紹介したとおり、鶴岡は羽黒三山に登るときに降りたった駅です。朝日連峰の縦走を終えて戻ってくる駅でもあります。人口12万人の小さな街ながら品格があります。丸谷才一や藤沢周平を輩出した街です。

藤沢周平の小説には海坂藩を舞台にしたものがいくつかあります。海坂は架空の名で、庄内藩と城下町鶴岡がモデルになっています。藤沢の代表作『蝉しぐれ』も海坂藩を舞台にしています。

『蝉しぐれ』は、跡目争いに巻き込まれる武士の苦悩を描いている点で、山本周五郎の『樅の木は残った』に似ています。ですが、原田甲斐は重臣であったのに対し、牧文四郎は下級武士のせがれであり、ガラリといろあいの異なる青春小説です。

このブログの文脈で蝉しぐれというと、どうしても閑かさやの句を思い浮かべてしまいます。芭蕉は蝉の声のなか宇宙の閑かさを聴きとりましたが、牧文四郎はなにを聴きとったのでしょうか。とまれ、ご一読くだされ。

酒田には2度訪れています。1度目は鳥海山に登ったとき。2度目は朝日連峰を縦走したあとです。後者のとき、涼しい風がふきはじめるどころか、台風が襲来して飛行機が飛びませんでした。やむなく山形新幹線を乗り継いで東京へむかうことにしました。

まずは鶴岡から山形新幹線の北端の駅である新庄をめざしました。その際の乗換え駅が余目駅でした。プラットホームを歩いていると、「おくりびと/ロケ地」のプレートがありました。

映画『おくりびと』には、芭蕉が触れた刀鍛治とおなじく、いっけん不浄とおもわれている納棺師という仕事も、人間と人生の深いところに触れる道であることが示されていました。そういえば、『蝉しぐれ』でも文四郎が父の「おくりびと」となる場面がありました。

プレートには、大悟(もっくん)の妻(広末涼子さん)が故郷に帰るシーンで、ちょうどこの場所に立っていましたとありました。そうでしたね、『おくりびと』の背景には、美しい鳥海山が聳えていました。

この日は残念ながら台風接近のためガスがかかっています。晴れていれば、鳥海が雄大な裾野を広げていたことでしょう。そして、もっくんの弾くチェロの音が聞こえてきたことでしょう。あーあのチェロの音色が聴きたくなりました。

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