ある離婚事件が解決した。というより、離婚そのものは、1昨年5月に成立していた。長く続いていたのは財産分与の争いである。本件では妻側から依頼を受けていた。財産分与というのは、婚姻後に夫婦で形成・維持した(主に夫名義となっている)夫婦の財産を2分の1ずつに分割・清算することである。
離婚に際しては、離婚するかどうかのほか、未成年の子がいれば親権者、養育費(離婚までは婚姻費用分担)、面会交流、財産分与(家財道具の分割を含む。)、慰謝料、年金分割など付随的な問題をあわせて解決しなければならない。
本件では、調停申立後まもなく、離婚すること、親権者を母とすることについては合意ができたので、調停外で離婚届を作成し、市役所に提出した。残る財産分与、慰謝料請求等は離婚と同時でなくともよい。離婚後2年の間に解決すればよいことになっている。
とりあえず財産分与と慰謝料等の問題解決は先送りして、離婚を成立させることにした。財産分与等の争いがこじれて離婚するかどうかまで紛争化するとやっかいだから。
協議離婚や調停離婚には理由が必要ない。本人たちが納得しているのであれば、国や裁判所としてはこれを容認する立場である。
これに対し、裁判離婚には離婚原因が必要である。離婚に応じない相手方に対し無理矢理別れるよう裁判所が命令するのであるから、それなりの根拠が必要である。
不貞や暴力等は分かりやすい離婚理由である。分かりにくいのは「婚姻を継続しがたい重大な事由」という離婚原因である。結婚してから今日までのありとあらゆる事由が対象となる。夫婦の間のことであるから、確たる証拠がないことがほとんどで、多くは水掛け論となる。勝敗があらかじめ読めない。
こうしたことから離婚訴訟は長期化し、精神的にも疲弊してしまう。そのため、離婚そのものと財産上の争いを切り離して、個別に解決するほうが望ましいと考える。本件でもそう考え、離婚を先行させた。
家庭裁判所の家事調停の制度上の欠陥と思うのだが、離婚調停における財産分与等は付随的請求ということになっていて、離婚が成立してしまうと、残る財産分与等の請求だけを調停の対象とはしてくれなくなる。いったん取り下げ、あらためて財産分与調停を申し立てなくてはならない。
本件では当初、夫もそれほど強い異論はなく、すんなりと解決するかに思えた。そのため、再度の調停申立は行わず、調停外で夫と交渉を行った。そしてほぼほぼ合意ができそうな感じであった。家財道具の運びだしにも応じてくれ、夫が留守のうちに屋内に入り家財道具の運び出しを行っていた。
紛争にかぎらず人間の心理というか、「空気」の流れというかというのがある。うまく流れに乗ってすんなり解決することがあると思えば、ささいなことをきっかけに関係がギクシャクしてしまうことがある。
ささいなことといっても、第三者的にみればということである。離婚というのは人生における最大のストレス事象である。そうしたなか、うまくいかなかった婚姻を象徴するようなアイコンに触れてしまうと、逆鱗に触れるというか、あとは大もめにもめてしまうことになる。本件がそうであった。きっかけは妻が夫の結婚指輪まで持ち出してしまったことである。
結婚指輪の返還、住居内への立入り禁止・鍵の返還、子どもの学資保険の保留、妻名義の預貯金が特有財産であるとの主張、財産分与額の減額請求など、夫の要求はつづいた。
これに拍車をかけたのが、妻の長期不在・連絡不能な事態である。紛争は解決の機運をうしない、長期化してしまった。問合せをしてもレスポンスがないということが双方につづいた。
そうして今般、離婚成立からタイムリミットの2年をまえにしてようやく解決した。〆切効果である。紛争というのは生き物であることを改めて感じた次第である。
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