2025年1月16日木曜日

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬著・早川文庫

 

 『同志少女よ、敵を撃て』を読んだ。逢坂冬馬著・早川文庫刊。2022年本屋大賞受賞作。なぜ、いまごろ?文庫になったから?

 さいきんの読書生活はジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』とマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』をなんどか周回しているので、直木賞や本屋大賞には手を出さなくなった。

 『同志少女よ、敵を撃て』についてはさらに手を出さなかった理由がある。同作が2022年本屋大賞を受賞したことはもちろん知っていた。が、それが独ソ戦におけるソ連軍側狙撃兵の話であることから、時期が悪すぎる。本屋大賞の発表は毎年4月であるところ、同年2月にロシアがウクライナに侵攻していたから。

 それではなぜいま読んだのか?年始、羽田空港を利用した際、出発までと機中での時間を潰す必要があったから。

 当時ジョイスの第4巻を読んでいた。これは旅のお供としては重すぎる。芭蕉の紀行文集を持参したものの、ひととおり読み終えていた。空港ではすこし軽いものを読みたかった。

 まずいつもの第一ターミナル2Fのブックストアへ向かった。・・・ない。別の店になっていた。福岡でも書店がつぎつぎと閉店している。当然あると思っていた書店がなくなっていたときの喪失感は半端ない。Amazonだよりの日常を反省した。

 空港コンシェルジュのお姉さんに尋ねると、地下1階に山下書店があるという。2Fから3フロアをくだり、そこであれこれ物色した結果が、本作である。待ち時間が長かったこともあり、一気読みしてしまった。

 2001年の映画『スターリングラード』をみたことがある。スターリングラード攻防戦を舞台に、狙撃手の孤独な戦いや好敵手との心性戦を描いたもの。背景、舞台や道具立ては予想どおり同作とほぼ一緒である。

 しかしそこは現代日本の作家が描いたもの。戦争だからしかたがないというロジックは採用されていない。なぜ生きるのか、なぜ戦うのか、なぜ狙撃なのか、敵とは誰なのか、戦争が終わったらどうするのかという問いが繰り返し発せられ、回答される。

 前半それはややクドく感じられるものの、後半になってそれらの伏線がひとつひとつ着実に回収されるさまは見事。

 現代日本に生きるわれわれも、なぜ生きるのか、なぜ働くのか、なぜいまの仕事なのか、敵は誰なのか、リタイアしたらどうするのかを繰り返し問いながら生きている。したがって、作中の登場人物たちの回答に納得するもしないも各人の立場と価値観によるだろう。

 予想されたこととはいえ、同作や同作を本屋大賞に選定した人たちが、戦争の惨禍やロシアの侵略を是認する立場ではないことを知って、ホッとした。

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