つぎの問題は特別受益(生前贈与)である。遺留分侵害額=遺産の総額×遺留分なのであるが、ここでいう遺産の総額には、被相続人が亡くなったときに所有していた財産の価額に、生前贈与の価額を加えたものをいう。この生前贈与を特別受益という。
本件では、①長男に対し自宅土地・建物が生前贈与されていたほか、②長男の子に対する学資の生前贈与、③長男を受取人とする生前の生命保険金契約が問題とされた。
被相続人は、その夫(長男らの父)の遺産分割事件のときの依頼人である。立派なお考えの気丈なかたであった。これら生前贈与も、被相続人が財産運用に詳しい人物と相談して行ったものである。当職としては、故人の遺志を可能なかぎりまっとうできるよう頑張った。
まず①長男に対する自宅土地・建物の生前贈与。これはどうしようもない。法律の定めにしたがい、遺産の総額としてカウントされた。これを持ち戻しという。
つぎに②長男の子に対する学資の生前贈与。この点は、異説はあるものの、通説では、持ち戻しの対象とはならない。最近の事例では、年少者に対する贈与に仮託された父に対する贈与であると主張されたことがあったが、本件ではそこまでの争いはなかった。
最後に③長男を受取人とする生前の生命保険金契約。この点も、原則として持ち戻しの対象とはならないと解されている。遺産の総額における生命保険金額の割合が多いと例外とされることがある。本件では全体のバランスを失するほどの金額ではなかった。
かくて特別受益の争点も、当方が主張したとおりに決着した。よしよし。
依頼人及び被相続人とは、依頼人の父(被相続人の夫)の相続争い時からのつきあい。長い間にたがいに気心も知れ、信頼関係も生まれた。長い争いはよいことではないが、よいことがなくもない(つまり、よいこともある)のである。
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