2024年12月18日水曜日

『バリ山行』松永K三蔵著(2)

 

(六甲山稜線から望む大阪湾)

 登山の教科書を読むと、最初に「登山道を外れて歩くことは避けましょう」という注意が書いてある。その理由として、土が踏み固められ道幅が広がり、植物の生育場所を奪ってしまうなどと書かれている。

 このような注意と理由は不十分、もっと言えば間違いだと思う。もちろん植生保護の重要性を否定するものではない。しかしまず第一は登山者の生命・身体の安全であろう。

 バリ山行のように意識的・目的をもってバリエーションルートを行くばあい、登山道を外れて歩くことになる。しかし一般の登山者が登山道を外れて歩くのは道迷いしたときである。

 道がカーブしているところで、カーブに気づかずに直進してしまい道迷いすることがある。一度誰かが道迷いをすると踏み跡ができてしまい、その跡をまた誰かが迷ってしまう。迷い道のほうもしっかりした踏み跡になってしまう。・・・

 道迷いしたとき、最善の策は登山道まで戻ることである。早く気づければ戻ることに躊躇はない。しかし15分ほど先へ進んでしまうと、戻るのがもったいないという気持ちになってしまう。そのまま先へ進んでも、どうにか下山できるのではないかと思ってしまう。

 いったん道迷いしてしまうと、テンパってしまい冷静な判断ができなくなってしまう。視野狭窄に陥り、ますます先へ危険な方向へ進んでしまう。足もとが覚束なくなり、転倒したり滑落したりしてしまう。結果、遭難してしまう。

 ぼくも何度か道迷いを経験したことがある。すぐ気づいて登山道まで戻れたことも多い。が、気づかずにすごい苦労をしたことや、危ない目にあったこともある。

 一番肝を冷やしたのは、劔岳の登りで道迷いしたとき。南斜面に水平に登山道がついていたのだが、あるところで左手斜面を直角に登っていかなければならないところがあった。しかしかなりの人数が直進したのであろう、まっすぐに踏み跡が続いていた。

 昼間であれば、左手斜面の登山道に容易に気づいたと思う。しかし登山は早出、早着きが基本。その日は未明、午前3時ころ出発してまだまだ暗い時間帯であった。もちろんヘッドランプは点けているのであるが、視野は狭い。直進してしまった。

 しばらく進んだところで、左手上部にヘッドランプの点滅が見えた。そこで間違いに気づいた。そこで戻ればよかった。が、ここでも判断を間違えた。そこからヘッドランプが見える方向へ直進してしまったのだ。

 途中、崖になってしまい、容易には進めなくなってしまった。戻ることもできない。万事窮す。絶体絶命。・・・だったが、あたりが明るくなるのを待って、どうにか登れそうなルートを見つけることができて、事なきを得た。

 登山道以外を歩くと、登山道がいかに登りやすい道であるか実感することができる。まず、登りやすいところに登山道はつけられている。山や斜面には弱点があり、弱点を攻めろといわれる。たとえば、山の北側は壁になっているが、南側はなだらかな斜面になっていることがある。つまり、南側は山の弱点である。登山道は南側についているはずだ。

 つぎに、登山道は整備されている。植物が繁茂した藪はない(バリ山行の基本は藪漕ぎである。)。大きな石や、倒れた大木などは除去されている。危険箇所にはハシゴや鎖がつけられていたりもする。歩きやすく安全だ。

 バリ登山は、このような登山道の常識、登山の常識にまっこうから対抗しようというものだ。一般人はやらない。やるのは変態だけだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿