ある遺留分侵害額請求事件が解決した。父親の遺産分割事件から引き続いての母親の遺産分割にからむ事件。仲のよかった兄弟姉妹が相続をきっかけにして争続となってしまう悲しい事案のひとつである。
依頼人は4人兄弟姉妹の長男。母は父親(夫)の相続のときの経緯もあり、長男にすべての遺産を譲るとの遺言をのこした。これに対し、他の弟姉妹が遺留分侵害額を請求した。
遺留分とは、遺留分権利者を保護するため、被相続人の遺言を一部制限する制度である。
子の場合は、法定相続分の2分の1相当額が遺留分である。父はすでに亡く4人の兄弟姉妹であるから、法定相続分は各4分の1。その2分の1相当額であるから、遺留分は各8分の1である。
すべてを譲られた長男に対し、他の3人の弟姉妹が各8分の1相当額の請求をおこなってきた。遺産総額の8分の1であるから、遺産の総額がいくらになるかが大きな問題である。そのため不動産の評価と特別受益の額が争点となった。
まず不動産の評価。遺産が現金・預貯金だけで構成されていれば問題はない。しかし不動産が含まれていると、その評価が問題となる。
本件では実家の土地・建物およびその周辺の不動産が遺産に含まれていた。その評価が高くなれば遺産の総額が大きくなるし(長男が支払う分が多くなる。)、安くなれば遺産の総額が小さくなる(支払う分が少なくなる。)。
この点について、すぐに入手できる資料としては、市町村が実施している固定資産税評価がある。これは市町村が固定資産税を課税する前提としておこなっている評価である。まずはこれが評価の基準となる。
固定資産税評価における土地の評価は一般に時価の7割といわれている。ここから、固定資産税評価を0.7で割り戻した額が主張されることになる(時価×0.7=固定資産税評価額でるから、時価=固定資産税評価額÷0.7)。
しかし、実際に同不動産を売却することになれば、動産類の撤去・処分費、測量費、仲介手数料、登記費用、譲渡所得税等の経費がかかるため、遺産不動産の評価としては固定資産税評価額でもそれほどおかしな話ではない。
本件ではこちらが請求された側であったので固定資産税評価を主張し、相手方は0.7で割り戻した額を主張した。さらに相手方は、実家の自宅土地・建物について、不動産業者の査定書2通を証拠として提出してきた。
相手方の査定書の1通目には、何らの根拠も書かれていなかった。2通目には、近隣の売買実績に基づく査定根拠が書かれていたが、その売買実績は10年ほど前のものだった。つまり、近隣ではこの10年不動産が売れていないということになる(県内であるが、福岡市近郊ではない。)。いずれも根拠薄弱である。
相手方の査定に対抗するため、こちらも査定書1通を提出した。当方の査定書は調査が行き届き、最近の売買実績に基づき、相手方の査定より低いものとなっていた。
結局、3つの査定書のうち、当方の査定書の金額で決着することになった。実家の自宅土地・建物については、こちらの主張どおりの解決である。よし。
さらに、実家近くにある土地についても固定資産税評価額で決着した。理由は、近隣で10年間売買実績がないのであるから、0.7で割り戻した額で売れるはずはないというものである。こちらの争点もこちらの主張が通った。よし。
要するに、不動産の評価という争点は、すべてこちらの言うとおりとなった。よしよし。
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