わが事務所の秘書さんたちは優秀だ。「あの人の記録あるかな?」と言っただけで、その記録がでてくる。指示代名詞だけで通用する。阿吽の呼吸とはこのことだ。
ときどき「なんでわかったの?」と尋ねたくなる。こちらの頭のなかが正確に読まれているということだ。かのじょたちは連想ゲームに強いにちがいない。
最近は「あれ誰だっけ?」とか、「あの資料のことだけど?」など、当職の指示代名詞が急増している。かかる状況に対し、さすがに対応しきれない事態もときに発生している。
先日も、ある事件の相手方の弁護士の名前が思い出せなかった。いつもどおり「あの相手方の弁護士は誰だったっけ?」と問いかけたところ、「石井先生でしょうか?」との回答だった。
一瞬頭のなかが空白となったものの、「そうそう梅田先生だったね。」と返した。すると、事務所の1階フロアが大爆笑につつまれた。
医療問題研究会という弁護士グループに所属している。医療過誤訴訟は難しいので、みなで知恵を出し合い乗り越えていこうという会である。薬害エイズ、らい予防法違憲、薬害肝炎など困難な集団訴訟も中核はみな研究会所属弁護士がになっている。
なかでも小林弁護士は医療にくわしい。医者よりくわしい。あるとき、かれが虫垂炎になったことがあった。
腹痛をおぼえて済生会病院を受診したところ、医師はただの腹痛だから帰宅するように言った。しかし、かれは虫垂炎であると訴え、がんばって入院させてもらった。翌朝なんと、かれの自己診断が正しかったことが判明した。
かれが自己診断の根拠にしたのは、ブルンベルグ徴候である。普通の腹痛は押すと痛い。しかし、虫垂炎のときは、押すときは痛みはなく、離すときに痛みを感じる。人間の体は不思議だ。
さいきんのわが記憶もそうだ。なんだったっけ?と、意識的に記憶のネットワークをさぐっているときは、きまって思い出せない。しかし、他のことに意識を向けた瞬間、記憶が蘇ってくるのだ。
このときもそうだ。「あの相手方の弁護士は誰だっけ?」という問いかけに集中していると、いつまで経っても思い出せない。しかし、「石井先生でしょうか?」と返しがあったために、「それはちがうな。」と頭が反応した。その結果、あら不思議!?梅田先生の名前が浮かんできたのだ。間接アプローチという、そうとう高度な阿吽の呼吸。
翌日。れいによって「あれ誰だっけ?」と問いかけたら、他の秘書さんが早くもクスクス笑い出した。「ちょっと待てよ。」(キムタクふうに)「まだ笑うところじゃないから!」
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