2023年5月12日金曜日

職場における暴行・パワハラ事件(福岡高裁判決)

 


 刑事事件を含めれば、平成28年から係争していた事件について高裁判決がなされた。

飲食店において上司YらがアルバイトXに対し暴行やパワハラを行い、PTSDを発症したとして、約2500万円の損害賠償が求められた事案である。

刑事事件において被告人の弁護を行った流れで、民事事件においても損害賠償を求められたY側から依頼を受けた。

刑事事件では、職場懇親会とその前々日に行ったとされる主に4つの暴行(傷害ではない。)の有無を争った。1審では全面的に有罪となり罰金40万円。控訴したところ、2つの暴行について無罪となり、罰金は20万円に減額された(刑事福岡高裁判決)。

その後、起こされた民事事件では、上記4つ以外にも多数の暴行・暴言が問題にされた。そして、XはこれによりPTSDを発症したという。某大学病院医師による診断を裏付けとしている。被告側は、Yだけでなく、上記飲食店、同僚、部下など関係者6人が訴えられた。

民事一審の福岡地裁も二審の福岡高裁も、暴行については、刑事福岡高裁判決どおり、それがあったことを認めた。しかし、Xが新たに展開した他の暴行や暴言については、これを認めなかった。

問題はPTSDのほうである。PTSDとは、心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder)のこと。生死に関わるような体験をし、強い衝撃を受けた後で、その体験の記憶が当時の恐怖や無力感とともに、自分の意志とは無関係に思い出され、まだ被害が続いているような現実感を生じる病気である。

某大学病院医師は、Yが訴える多数の暴行・暴言を前提として、PTSDの発症を診断している。その前提が崩れた場合、どうなるのか。

民事一審の福岡地裁も福岡高裁もPTSDは認定しなかった。しかし、一審は、非器質性精神障害の発症の限度で被害を認め、302万円の支払を命じた。

双方ともこれが不服であるとして控訴した。控訴審では和解が模索されたが成就せず、結局判決となった。高裁判決は、上記非器質性精神障害の発症も認めず、暴行による損害として約77万円の損害賠償を命じた。

刑事事件高裁で一部有罪になっているので、ゼロというわけにはいかないであろう。一部敗訴とはいえ、約2500万円の請求が約77万円になったのだから大勝利と言ってよいと思う。

治療を前提とした精神科の医学において、患者の訴えは基本的に受容される。これを否定していては治療をすることができない。しかし、いったん診断名がついてしまうと、それを否定するために司法の場では難しい医学論争が必要になる。それにしても民事だけでも5年。長すぎる。

この間、コロナ禍の3年間があり、いずれも飲食店を経営したり、そこで働いている被告側の関係者も少なからぬ打撃を受けてきた。高裁判決で大勝利となったものの、いまひとつ意気が揚がらぬ幕切れである。

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