不動産屋さんからのご相談。建物を建てられない土地を資材置き場として貸そうとしているのだけれども、どの契約書を利用してよいのかわからないという。訊けば、資材を雨ざらしにしないための覆い屋や管理のためのプレハブは設置予定らしい。たしかに難問だ。
分厚い民法を一言で言えば、約束(契約)を守りましょうということ。子どものころ親から言われたとおり。だから土地の賃貸も、期間、賃料、更新の有無など契約書に記載したとおりの内容になるはず。
だけれども、近代市民法は現代的観点から修正を受けている。民法をつくったのはナポレオンである。市民革命後、国王がいなくなり、対等な市民どうしを律する法律として(市)民法がつくられた。対等な者しかいなければ、約束は守りましょうということで足りる。国家が市民の約束に介入する必要はない。
しかし、その後、産業革命が進展し、財産をもてる者ともたざる者との間に圧倒的な力の差が生じた。それを社会的な観点から是正しようとするのが現代の法律である。
土地や建物の賃貸借に関しては、借地借家法が社会的な観点から民法を修正している。簡単にいうと、店子(たなこ。借主のこと。)を保護し、家主や地主の横暴を許さぬということである。
店子を保護するということだから、借地借家法の保護の対象は建物の所有を目的とする土地の賃借権にかぎられている。では、資材を雨ざらしにしないための覆い屋や管理のためのプレハブは、ここでいう「建物」に該当するのか。また、主たる目的は資材置き場として貸すのであり、建物所有を目的とするものではない。この場合、「建物所有を目的とする」と言えるのか。
まず「建物」かどうか。撤去が容易な仮設の建物(例えば、災害の被災者用のプレハブ住宅)の場合でも、土地に定着し、屋根・周壁を有し、永続して使用でき、かつ独立的・排他的支配ができる構造を有するものであれば建物に該当するとある。他方、地面に直接丸太を立て、上方を自動車に雨がかからない程度にトタンで覆ったにすぎない掘立式の車庫は建物に当たらないとした判例がある。
つぎに「建物所有を目的とする」かどうか。自動車教習所については、借地借家法の適用を認めた最高裁判例と、これを否定した判例がある。ゴルフ練習場については、適用を否定した最高裁判例がある。駐車場についても、借地借家法の適用はないとされるものの、スーパーマケットに付属するものは建物に付属するものとして保護の対象となるとされる。
つまり、資材置き場の賃借権が借地借家法により保護されるかどうかはケースバイケースである。最高裁まで争われた裁判例がすくなくないことからも、その判断が微妙であることが分かる。貸主と借主で見解がわかれるだけでなく、裁判官によっても判断がわかれていることを示唆している。本件もどうなるかわからない。せっかく相談に来られたけれども、回答はこのようにぼやけている。
こういう場合、最初から事業用借地権とする方法がある。借地借家法の適用を前提として期間を限定しまう方法である。これをお奨めするしかなかろう。地主さんも借主さんも更新することを考えているようだけれども、背に腹は代えられない。
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