2022年10月25日火曜日

造化の天工(2)

 




 坊がツルでテント泊した。坊がツルから歩いて5~10分ほどのところに法華院温泉がある。山行中は風呂に入れないのが一般的だが、九重では温泉に入ることができる。なんという贅沢。

山々に切り取られた夜空には、街中で見るより大きな星たち、たくさんの星たちが輝いていた。

あすは午前6時30分ころ日の出となっている。大船山の山頂まで2時間30分のコースタイム。午前4時には出発しなければならない。

夢をみていた。そのなかに目覚ましが聞こえてきた。午前3時50分。真っ暗。いっしゅんどこか分からない。そうだ、テントのなかだ。

ヘッドランプをつけ身支度をしてテントを出ると、すでに何人もの人たちが大船山のほうへ向かって出発していた。遅れてならじと出発する。とりあえず朝食は抜きだ。

登山道は真っ暗。大船山の登山道はいく筋にも分かれている。たいがいは合流することになるが、昼でも迷うことがある。用心しながら登る。

先行する人たちの灯りがゆらゆらしている。先行する人たちが道迷いしなければ方向を間違うことはないのだろうけど。

マインドフルネスが流行だ。グーグル社で採用されているという。日本流に言えば、禅や瞑想により「今ここ」に集中することだ。それにより過去や将来の雑念から解放されることになる。

「今ここ」に心を集中することを「念」という。「念」という漢字はだから「今」+「心」でなりたっている。逆の心は「雑念」。よくできている。

登山は歩く禅だ。日常生活のなかでは、どうしても仕事上のストレスに心がとらわれてしまう。考えまいとしても、いつのまにかまた考えてしまっている。だけれども山歩きをしていると、今ここに集中しやすい。暗い中だと、なおさらだ。山歩きをしているうち、心が晴れてくる。マインドがフルになる。

山頂はすでに20人程度の人たちがご来光を待っていた。あとからも続々と登ってくる。残念ながらガスガスだ。天気予報ははずれた。ご来光も、いまが盛りの紅葉も嘆賞することができない。ま、こういう日もある。

みな名残おしそうにガスが晴れるのを待っていた。が、あきらめて下山することにした。大船山で撮った写真は落葉の一枚だけだ。紅葉は落葉してもなお美しい。

坊がツルに戻り、テントを撤収する。これもまた禅だ。テントや寝袋を折りたたみ、収納することに集中する。ラムサール条約登録湿地・坊がツルともしばらくお別れだ。ススキや葦類の穂波がツヤツヤと揺れている。秋色だ。

写真を拡大すると、左のほうにススキ原を行く登山者が3人写っている。山水画にはよく見ると小さな旅人が書かれているが多い。書かれた旅人と同心し、風景のなかの世界に入りやすいのだそうだ。みなさんも、いっとき坊がツルを散策してくだされ。

帰りは雨が池コースをたどる。その先展望所から下りはじめると、いまさらながら日が射してきた。紅葉がキラキラ光る。

ムシカリの実もキラキラ光っている。ムシカリの葉は虫たちの大好物だそうで、食べあとが無数の穴となっている。虫は樹花の受粉をたすけ、樹は虫に葉の餌を提供する。もちつもたれつ豊かな実りだ。

下山口の長者原手前に、やはりラムサール条約登録湿地であるタデ原湿原がある。親子連れらが秋を楽しんでいた。

湿原のなかに、ヤマラッキョウの花がたくさん咲いていた。他の植物が花を咲かせない季節なのに。独自の戦略。あのラッキョウの仲間とは思えない、心ひかれる姿。これもまた造化の天工のなせる技だ。

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