2022年10月21日金曜日

見えない力を信じる


  奈良大宮ロータリークラブの招待で百名山の一つ、奈良の大峰山に登ったことがあった。前日は山麓にある竜泉寺で斎戒沐浴。滝行、護摩炊きなどをおこなった。その際、唱えたお経は般若心経だった。霊山に入るまえ、心は澄んでいった。

ラフカディオ・ハーンの『怪談』。そのなかの一編「耳なし芳一のはなし」。平家の亡霊に魅入られた際、和尚は芳一の「全身に」お経を書き付ける。ところが耳にだけお経を書き忘れたため、亡霊武者に耳だけをちぎって持っていかれてしまう。みなさんご存じだろう。あの話のなかで和尚が書いたお経は般若心経である。

般若心経はあの孫悟空に出てくる三蔵法師が中国に伝えた。そして漢字に翻訳し、それが日本に伝わった。般若心経のよいところは、なんといっても簡潔なところだ。簡潔だいすき。全部で漢字262文字。

NHK100分de名著シリーズで『般若心経』佐々木閑著を読んだ。以下、ぼくなりに理解したところ(誤りがあると思うので、自分で読んでみてくだされ。)。ではまずクイズ。「般若心経はお釈迦様の教えである。○か×か。」

答えは×。お釈迦様はおよそ2500年前の人、般若心経はそれから500年ほど経ったころに起こった宗教運動のなかでうまれてきた教えである。いわゆる大乗仏教の一派(対するお釈迦様の教えは小乗仏教とか上座部仏教と呼ばれる。)。そして大乗仏教はお釈迦様の教えを乗り越えようとしたものである。

ざっくり言って、お釈迦様の説かれた教えは、とても物理的な世界観である(色あり)。そして論理的・分析的な教えである。自利といって自分が修行して仏になることを教える。

対する般若心経は、まず釈迦が前提としていた世界観を否定する(色即是空)。物理の外側に神秘の世界が広がっている。そのうえで、見えない力を信じ、利他の行い、さらにはお経を唱えることだけで仏になれると説く。

コロナ禍、ロシアのウクライナ侵略、円安、物価高騰など世の中は激動している。このため、われわれの心も揺れ動き安定しない。つまり、不安である。

不安な心を安定させ、安心するにはどうしたらよいのか。心を安定させるための「よりどころ」が必要である。その一つが宗教であることは歴史的にあきらかである。さいきんでは「宗教を信じている人のほうが、そうでない人より幸福度が高い」という実験結果もある。

しかし他方で統一教会・霊感商法問題もある。宗教にも、よい宗教と悪い宗教があるのだろう。不安なあまり悪い宗教に取り込まれたりしないように注意しないといけない。仏にいたる道は狭い。狭き門である。

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