今朝はなぜか亡Y先生のことを思い出す。数年前にお亡くなりになった。10年以上先輩で、福岡県弁護士会で何番目かの女性弁護士である。いまでこそ女性弁護士は増えたが、先生が登録されたころは数もすくなく、パイオニア的存在だった。
紛争当事者はいわゆるおっさんも多く、女性とみるだけで侮ってかかることが少なくない。いまでもそうだ。むかしは推して知るべしである。
とはいえ、事件で引き合い(相手方)となることもなく、会務でご一緒することもなかった。ところが、あるとき唯一の接点ができた。お亡くなりになっていることだし、もう時効だからここに紹介してもよかろう。
あるとき、紛議の申立を受けた。紛議とは弁護士の職務遂行の仕方について顧客が弁護士会に苦情申立をおこない、解決を求める制度である。先生はその担当委員になられた。
同事案は、労災事故。一審では事故かどうかの事実論と会社の責任論が厳しく争われた。そこをなんとか勝訴に導くことができた。損害論は争われず数千万円の賠償が認められた。
控訴審では相手方弁護士は作戦と争点を変更して、損害論を争った。当方被害者には既存障害(事故以前からあった障害)があったとして、賠償額の減額を求めた。高裁は和解勧告を行い、損害額は半分に削られた。
依頼人との間で何度も和解を受けるかどうか協議し、方針確認書を3通作成、署名・捺印を得たうえで和解に応じた。
ところが、前記紛議の申立である。このような和解に応じたことには弁護士の職務遂行として問題があるというのである。
高裁の和解に応じたというだけでも弁護士の責任はないと思われるが、方針確認書を3通作成し、依頼人の承諾を(もちろん、署名・捺印も)得ているのであるから、当職に責任はない。そもそも普通の弁護士であれば、一審での勝訴もおぼつかなかったであろう。そう争った。
通例、紛議委員は、相手方の顔もたてて、なかとりの示談を勧めることが多いという。Y先生と協議した。示談を勧められるかなと思ったら、「こんなのに負けちゃダメよ。」と励まされた。
これには感銘を受けた。これほど強い言葉はあまり聞かない。紛議委員という立場上、もっとあいまいな表現になるのが通例であろう。
さすが女性弁護士としてのパイオニア。数々のご苦労をなさってきたことだろう。そのなかで培われた確かな正義感と、それに基づく後輩弁護士への指導と受けとめた。いまでも感謝している(紛議のほうは、しばらく尾をひいたが、申立人が無事あきらめてくれた。)。
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