九州国立博物館でおこなわれていた「北斎展」が終了した。北斎は天才肌だと思っていたけれども、90歳まで生き、最後まで努力の人であったことに感銘を受けた。有名な「神奈川沖裏波」の画もパッと描けたわけではなく、それに至る数々の挑戦があったことが分かった。
北斎は他方ですごい引越魔だったらしい。人生で93回、ひどいときは1日に3回も引越をおこなったという。海外でいえば、ベートーベンも引越魔だったらしい。かれらは天才というギフトと引き換えに、環境にうまく馴染めない、あるいは、世俗的な忍耐力に乏しいという性格でもあったのかもしれない。平々凡々な人生のほうがよいような気がするのは、わが凡人の凡人たるゆえんか。
日本弁護士連合会の月間誌『自由と正義』に、中原阿里弁護士が「幸せって何だろう?」という文書を書いている。同弁護士の経歴がすごい(女性の年齢を書いてよいものか迷うが、ネット情報によると50歳)。
大学卒業後、社長秘書から給食調理員まで様々な職を経験。中でも5年間、大学の医療事務職を勤めた。そこで社会的支援の重要さを思い知り、法知識ゼロからロースクールをめざし弁護士に(このとき40歳)。
弁護士になって、改めて「幸せとは何か」を問い直し、ウェルビーイングという言葉に出会う。それは肉体的、精神的、社会的に充たされた状態をいう。
心の幸せを理解したいと思い、臨床心理学、発達心理学、行動経済学、ポジティブ心理学など多様な学びに猛進し、そこからさらにコーチングを学んだ。
コーチングの手法は、傾聴、承認、そして質問。離婚紛争で夫の悪いところに焦点化されていた依頼人の関心を「質問」によって未来へ向け、本当の解決へ向けた回答を引き出すことができたという。
コーチングの魔法は弁護士のウェルビーイングにも効く。「弁護士は感情労働でもあり、依頼者対応や重圧のストレスは侮れず、私自身、心が疲弊しきった時期があります。コーチングを学んでからは聴く疲れが激減し、当事者の負の感情に巻き込まれにくくなりました。私自身を悩ませていた過度な不安癖も手放せるようになりました。一言でいうなら、生きやすくなったのです。」
自身も認めているように、このような転職や関心のありどころの頻繁な変化(いわば人生目標の度重なる引越)には、過度な不安癖も一役かっているだろう。しかしたかだか30年弱の人生でこれほど多様な挑戦をつづけてきたというのもすごい。尊敬します。
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