2012年11月28日水曜日

塚も動け



本屋さんでの待ちあわせに遅れそうだ。
が,『おくのほそ道』についてもうすこし。


江戸を出た芭蕉らは,埼玉を経て
栃木県の室の八島に参詣する。

曽良が旅前のリサーチの結果だろうか
室の八島に関する由来や縁起を披露する。

1 この神は木の花咲耶姫の神と申して
 富士一体なり。

2 (姫は)無戸室に入りて焼きたまふ,誓ひの御中に
  火々出見の尊産まれたまひしより,室の八島と申す。

3 煙をよみならはしはべるも
 このいはれなり。

4 このしろといふ魚を禁ず。
 縁起の旨,世に伝ふこともはべりし。

(それぞれ面白いエピソードだが
きょうは割愛する。

例の角川文庫
ビギナーズ・クラッシクスを参照されたい。)

古事記,藤原実方(『実方集』),地元の伝承などからなり
曽良の博識,リサーチの徹底ぶりがうかがえる。


 
そのつもりで
読むと曽良の句も結構ある。

日光男体山にて
   剃り捨てて黒髪山に衣替

那須野にて
   かさねとは八重撫子の名なるべし

白河の関にて
   卯の花をかざしに関の晴れ着かな

などなど。弟子というより
文字どおり同行者の扱いというべきだろう。


さてKさんは自分を曽良になぞらえたわけだが
こういう読みはむしろ一般的なのかもしれない。

考えてみれば,芭蕉のような天才は
むしろごくごく少数派である。

それを陰でささえる
縁の下の力持ちこそが多数派である。

曽良に自己を投影して
涙する人も少なくないであろう。


そういえば,2014年の大河ドラマは
岡田准一主演による黒田官兵衛らしい。

官兵衛は,豊臣秀吉の天下取りを
縁の下でささえた右腕,参謀である。

秀吉ではなく,官兵衛に
感情移入できる人が多数いることが前提だろう。


そういえば,2009年の大河ドラマ『天地人』
直江兼嗣もそうだった。

衰運いちじるしい上杉家をけなげにささえる
妻夫木くんにみな涙したんだった。


何ごとかを為し遂げる人は発想が常人とちがうので
仕えにくい人もおおい。

信長がその典型だろう。
光秀ならずとも共通認識だったようだ。

その点,部下に対する配慮をかかさぬ
すぐれた上司もすくなくない。

芭蕉は後者だったようだ。
見習いたい。


早世した愛弟子を追悼して
 
 
   塚も動けわが泣く声は秋の風

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