2011年8月22日月曜日
夜叉神峠
10月21日午前11時。変死体発見の一報を受け
甲府から南アルプス林道を登ってきた捜査車両4台は
夜叉神(やしゃじん)峠付近のトンネルをいくつも越え
さらに広河原までの山道を登ってゆくところだった。…
高村薫さんの「マークスの山」(新潮社)の
冒頭しばらくの記述です。
広河原は富士山の次に高い、日本第2位の高峰である北岳の
登山基地です。
夜叉神峠は甲府から南アルプス林道を使って
広河原入りする際の玄関口にあたります。
いかにもなにか事件が起こりそうな
玄関口ではあります。
2003年4月、われわれ九州弁護団は薬害肝炎訴訟を提訴しました。
被告は、ヒト、モノ、カネで圧倒的な力をもつ国と製薬大企業でした。
多数の医学・薬学上の論点が争点となりました。
なかでももっとも熾烈に争われたのがフィブリノゲン製剤の有効性でした。
われわれの拠り所は、薬事審議会のなかの血液製剤に関する再評価調査会が
獲得性の疾患に対する同製剤の有効性を否定していたことでした。
医薬品はいったん承認してしまったら、以後ずっとOKというわけではなく
市場で販売された後も再度評価をやりなおす制度があります(再評価)。
血液を固める複数の因子のうちの一つであるフィブリノゲンが欠乏するため
大量に出血するとされる疾患のうち、先天性でないものが獲得性です。
同調査会の審議も変転し、結論が出るのも長い時間を要しているのですが
最終的には同製剤の獲得性疾患に対する同製剤の適応を否定しました。
上記調査会の当時会長をしていたのが、衣笠恵士先生でした。
われわれは先生に原告側の証人になっていただきたいと依頼しました。
その際、先生がどのような研究をされているかネットで検索しました。
するとよくあることですが、同姓同名の方が3名いるようでした。
ひとりは再評価調査会の元会長であろう血液を専門とする医師
あとひとりは昆虫の研究者、もうひとりは水泳の記録保持者でした。
昆虫の研究者である衣笠氏は、研究誌に
「夜叉神峠のハナカミキリ3 種」といった論文が掲載されていました。
おどろいたことに、実際にお会いしてみると
上記3人はいずれも同一人物でした。
東大の医学部を出て、血液の分野で優れた業績を残すだけでなく
昆虫も研究され、水泳もお上手という多才な先生だったのでした。
われわれの質問がずいぶん初歩的で稚拙だったせいで
先生にはずいぶん叱られました。
それでも多数回の打合せを経て福岡地裁でご証言いただき
勝訴判決の大きな力になりました。
ネットで検索すると、先生はいまでは
薬害肝炎の原告側証人という肩書きもついています。
私も夜叉神峠でカミキリ虫をさがしてみましたが
おっかけっこをするリス2匹を見かけただけでした。
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