2010年11月12日金曜日

 鑑真の末裔



 中国がいまよりずっと貧しかったころ
 数百人の中国人が船底に隠れて東シナ海をわたり
 福岡に大量密入国した事件がありました。
 (念のためネットで検索してみましたが検出できません。
 それくらい古いはなし)

 当番弁護士として出動しました。

 ふつうは1人を担当すればいいところ
 あまりに多人数なため福岡県弁の人手がたりず
 宇美刑務所に勾留されていた3人を担当。

 刑務所は、三郡山の麓・昭和の森手前を右に入ったところ
 酷暑下、ただでさえ狭い面会室で、通訳さんとともに面会。

 私の質問を通訳さんが中国語に翻訳して質問するので
 通常の2倍の時間がかかります。

 さらに3人を担当したので6倍の時間がかかりました。
 終わったときはもうくたくた。

 蛇頭から騙された人たちで、法外な渡航料を払っていました。
 密入国者といっても騙されたかわいそうな被害者。

 「ワイルドソウル」の衛藤一家
 「山椒大夫」の安寿と厨子王のような。
 (イメージ映像です)

 どうせ強制送還するのなら
 裁判などしない(処分保留)で
 強制送還すればいいではないか?
 といいましたが、検察官は聞き入れません。

 上陸する前ならそれでいいけれども
 上陸した以上は裁判で有罪にする必要があるのだとか。
 なんという形式主義。これぞ秋霜烈日。

 裁判を受けさせるとなると
 すくなくとも2か月は刑務所に未決勾留されたうえ
 有罪となれば前科者として帰国することになります。

 蛇頭に騙されたのだから密航とは知らなかったと
 密入国の犯意を争いましたが
 あっさりと有罪(その後、強制送還)。

 そんな経験に照らし
 今回の中国船による公務執行妨害事件の対応は
 なんたることかと思います。
 秋霜烈日どころか周章狼狽。

 那覇地検は船長をなぜ処分保留で釈放してしまったのか?
 まったく解せません。
 ちゃんと国民にわかるように説明してほしいと思います。

 たとえばパトカーに自分の車をぶつけるなど
 われわれ日本国民が公務執行妨害罪でつかまったとすると
 想像を絶するくらい厳しく刑事責任を追及されます。
 公務執行妨害は権力の沽券にかかわる問題だからです。

 私のような一介の弁護人の立場からすると
 弱者とみればどこまでも厳しく
 強者とみればあっさりと腰砕け
 検察権力の運用のあり方に強い義憤をおぼえます。

 中国とむやみに争えといっているわけでありません。
 友好は友好でちゃんとしてほしいと思います。
 隣国であり2000年以上のつきあいなのですから。  

 そういえば彼ら密航中国人の1300年ほど先輩
 鑑真和上も船底にかくれて東シナ海をわたる密航でした。
 密入国ではなく密出国でしたが(「天平の甍」)
 ときの政府は大歓迎したそうです。
  

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