2012年4月17日火曜日
脳梗塞の見逃し事件 by.山歩きの好きな福岡の弁護士
去る3月27日、福岡地方裁判所において,医療事件で
原告の請求を一部認める判決が出されました(4月11日確定)。
事案は,福岡市内の被告病院が,同市の70代の女性(原告)の
脳梗塞の診断・治療を怠ったもの。
原告は、飲食店での支払いの際、何度も硬貨を落とすなどしたため
店員が脳梗塞を疑い119番通報し、被告病院に救急搬送されました。
当直医(消化器科)及び翌日診察した主治医(循環器科)が、TIA
(一過性脳虚血発作。脳梗塞の前駆症状であることが多い)を誤診。
TIAではないとし、治療(専門医への転送)をしなかったところ
2週間後に脳梗塞を発症、右半身麻痺等の障害を後遺することに。
被告病院の診断義務違反等を理由に
8000万円の損害賠償を請求をしました。
被告が,非専門医は,TIAを診断すべき義務はないなどと主張したものの
裁判所は,被告病院の過失を認めました。
TIAの診断方法等は一般的な医学文献に記載されており
その程度の知識は非専門医であっても認識しておくべきとの判断です。
被告医師らがTIAに関する誤った知識に基づき適切な問診を行わず
TIAについて否定的な診断をしたことは不適切であったとしました。
しかしながら裁判所は,
相当因果関係について否定しました。
①TIAを疑って入院させ、心電図がなされたとしても
心房細動が発見されたとは限らない。
②抗凝固療法が開始されていたとしても
100%脳梗塞の発症を防ぐことはできない。
それゆえ,被告病院医師の義務違反がなかったとしても
本件脳梗塞を防止し得た高度の蓋然性は認められないというのです。
ただし,被告医師がTIAを診断等していれば、後遺障害が生じなかった
相当程度の可能性はあるとして、慰謝料等440万円を認めました。
本判決は、非専門医であっても、一般的な医学文献に記載のある事項
については知識を得ておくべきであるとしました。
専門分野以外についての診断義務違反の判断方法の基準を示した点で
大きな意義を有しています。
脳梗塞を含む脳卒中という疾患は、日本人の死因でも上位を占め
多くの人がなる可能性がある病気です。
その重大さを考えれば、非専門医であっても
適切な診断・治療を行うことが期待されます。
本判決は,損害評価が低きに失するものの,この期待に応えるもので
市民感覚に合致するものではないでしょうか。
ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳
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