2012年3月14日水曜日
『シャーロック・ホームズの冒険』 by.映画も小説も好きな福岡の弁護士
きのう映画のシャーロック・ホームズと
小説のそれは別ものだと書きました。
小説のホームズは理知的な推理家であり
活劇的な要素はそれほどないはずだと。
しかし,そういえばホームズには
『シャーロック・ホームズの冒険』というタイトルもあったなぁ。
と思い当たり
念のため,いま読み直しているところです。
その結果,映画と小説が別ものとの評価は
正しいことを確認しました。
ちょっと認識をあらためたのは
ワトスン博士の役割です。
ホームズはもっとワトスン博士と会話をするなかで
謎解きをすすめていくものだと思っていました。
でもワトスン博士は実際のところ
謎解きにはまったく貢献していません。
じゃ,なにをしているかというと
いくつかの役割があります。
ひとつは,狂言回しというか
物語の進行役,説明役です。
テレビドラマでいえば
ナレーターみたいな。
ワトスン博士はホームズの伝記ライターという役どころで
この役割をはたしています。
そこから,彼は,問題や謎の提示者としての役割があります。
ホームズものの醍醐味は鮮やかな謎解きですから,これは不可欠です。
ホームズの頭の中ではほぼ最初から仮説としてであれ
謎の解決ができてしまっています。
ですから,ホームズのモノローグでこの小説を書いていくとすると
たいへんつまらない展開になってしまいます。
そこに一般人・平均人としてのワトスン博士の観察力・推理力を導入すると
ホームズの頭の中にある答えが見えなくなり,事件が謎になります。
謎解きはもっぱらワトスン博士の頭の中で
「理解」という形でなされるわけです。
そのため,両者の会話を通じて謎解きがなされる
かのごとき錯覚をしてしまいます。
ワトスン博士の観察力・推理力が一般人レベルに設定されていることから
彼にはわれわれ読者の代弁者としての役割もあります。
ワトスン博士の発する「なぜじゃ~」「誰がじゃ~」「どうしてじゃ~」
などの問いはわれわれ読者の発する問いでもあるわけです。
最後に,彼には,ホームズの探偵としての能力の賛美者
謎解きの見事さの賞賛者としての役割があります。
ホームズが自分で「じょうじゃ~」と自慢するのは鼻持ちならないところ
他者の立場から賞賛するので読者も受け入れやすいわけです。
その他,人手が足りないときはホームズの雇ったアルバイトたちと
端役もこなしたりします。
名探偵ホームズは,ワトスン博士がこのようにいろいろな役割を分担
してくれることで,後顧の憂いなくきわだった活躍ができるわけです。
これと対比すると,助手のいない
フィリップ・マーロウの大変さが理解できます。
ワトスン博士の役割もぜんぶ自分でやらないといけませんから
自然とモノローグで多弁,自己陶酔的にならざるをえません。
これはお笑いのコンビとピンの関係に似ています。
コンビであれば,ボケとツッコミの役割分担ができます。
ピンのばあい,ひとりでやらねばなりませんから
解説がいらない際だった芸を見せる必要があります。
ピン芸人は一発芸で当てて短期的には売れても
長続きしないのはそこら辺に原因がありそう。
以上,ピンが長続きしない原因に関する
私の推理でした。
ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳
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