法律と会社の規則で禁止して、啓発・研修を行い、相談窓口を設けて厳重に処罰すれば、ハラスメントはなくなるのか?
結婚式の仲人(福岡地裁刑事部の部総括裁判官)の名言によれば、夫婦とは、はじめのころは欲しくもないのにお茶がでてきて、しばらくたつと欲しいときにもお茶がでてこない関係のことである。愛し合って結婚し、長年いっしょに生活している夫婦にしてからがこうであるから、職場でいっしょなだけの男女、上司と部下の価値観・感じ方や快・不快の気持ちがすれ違うのはあたりまえである。
セクシャルハラスメントとは他の従業員を不快にさせる性的な言動であるから、性的な言動は誰かを不快にさせると疑ってかかる必要がある。近時、性的な言動も広がりをみせ、LGBTQの性的指向や性自認などの言動も含まれることから、昨夜のテレビの話題も話せない。うかうか話しているとセクハラをしてしまうことになる。
自身の最近の例を紹介しよう。うちは女性が多い職場である。ある職員がマイコプラズマに感染した。マイコプラズマとは何だろうと検索すると、患者として報告される人の80%は14歳以下とある。みなを安心させたいという気持ちから「マイコプラズマは若い人が感染する病気だからあまり神経質になる必要はないね。」みたいなことを言ってしまった。この発言の裏をとると、みなは若くないから大丈夫ーみたいな意味を含むことに発言してから気づいた。しまったと思った。
別の例。ある組織に所属している。長年勤めてくれた女性職員のAさんが定年でいったん区切りを迎えることになった(雇用延長)。ちょうどその日に、新しく入会を希望しているBさんの事務手続をAさんにしてもらった。Bさんは若々しく、60代かと思っていたら70代後半だった。(頭のなかではBさんの話題として)Aさんに対し「そんな年齢には見えませんねぇ。」と感想を述べた。これも言ったたあとで「しまった。」と思い、「いやいやAさんのことではなくて、Bさんのこと。」と発言を補足した。すると、これまたマズイ発言となってしまった。ことほどさように難しい。
パワハラもおなじ。ハラスメント研修をすると「話をすると唇が寒いから、黙っているのが一番ですね。」という感想を耳にする。しかしそうはいかない。
法律事務所の事務職員で組織する労働組合が行っている毎年恒例のアンケートがあり、いつもそれを熟読している。今年のを読むと、ある人は「購入した車の車種を弁護士に訊かれたのがイヤだった。」という。他の人は「一日中仕事の話だけで雑談がない。苦痛だ。」という。もうどうすればいいんじゃ、という感じである。
企業や団体には、人が集って達成しようとしている目的がある。その目的を実現するには、メンバーの協働がかかせない。うまく協働するには、いわゆる「ほう・れん・そう」、報告・連絡・相談の励行が必要である。それだけでなく、その基礎には基本的な信頼関係がなければならない。そのためには、日ごろから円滑なコミュニケーションが不可欠なのである。
トロイア戦争に勝利したオデュッセウス(英語名:ユリシーズ)は、故郷へ戻るため苦難の旅をつづけていた。あるとき、彼らの船は怪物スキュラの大岩と大渦巻きですべてを飲み込む怪物カリュブディスの大岩の狭き間を通り抜けていかなければならなかった。
われわれも、一方にハラスメントという大岩、他方にコミュニケーション不足による組織目的の不達成という大岩の狭き危険な間を、オデュッセウスのような知謀と巧みな弁舌で通り抜けていかなければならないのだ。
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