人権都市宣言のまち作りをするうえで、標語・看板や教育による啓発活動のつぎにやるべきことは何なのか?私は司法インフラの整備であると考える。具体的にいえば、手前みそながら、市民の身近に法律事務所や弁護士がいることである。
人権や権利が重要であるといくら宣言しても、それらが侵害されたときにこれを擁護する存在がなければ、画に描いた餅である。人権や権利を実現し、実際に擁護するのは司法であり、弁護士である。
わが事務所は1984年4月、二日市でうぶ声をあげた。地域に根ざすことを理念とした。当時は日本中の法律事務所が裁判所の周辺で門前町をなしていた時代である。裁判所のない場所での事務所開きは、とても先駆的であった。
司法をもっと市民に利用しやすいものにしようと具体的な司法改革がはじまったのは、2001年12月、それから17年ほど後の話である。
それから23年が経過した。司法改革の成果については毀誉褒貶がある。頭を傾げることも多いが、弁護士増員により裁判所の周辺に固まっていた法律事務所が地域に分散したことは喜ばしいことだろう。市民が司法を利用するうえで格段に便利になったと思う。
法律事務所の地域分散による恩恵の第1は意外にも、暴力団・やくざ介入事件の減少だと考える。私が弁護士になった当時、暴力団は債権回収業や暴力金融・高利貸しとして暗躍していた。かれらは「裏の弁護士」と称して活動していたのである。
父母が離婚する際、子を連れた母は父に対し養育費を請求することができる。いまなら弁護士に依頼したり、家庭裁判所で調停をすることがあたりまえになっている。昔はそうではなかった。養育費のようなものに関しても、債権回収について暴力団が介入していたのである。
「表の弁護士」が増えれば、「裏の弁護士」の仕事が減り、暴力団介入事件は減少していった。もちろん暴力団介入事件が減ったのは、それだけではなく、暴対法の効果や撲滅市民運動の成果でもあるだろう。しかし実感として、地域から暴力団介入事件が減少したのは、法律事務所と弁護士が地域に分散した効果も大きいと思う。
もちろん、暴力団介入事件の減少に限らず、不動産、賃貸借、雇用、不法行為、離婚、相続、債務整理など一般事件において、市民が弁護士に依頼し、権利を実現する機会も増えたと思う。
さらには狭い意味での人権擁護活動、すなわち国家権力からの人権侵害救済についても、地域的な広がりをみせていると信じたいが、実際はどうだろう?
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