2012年9月27日木曜日

『伊勢物語』by.福岡県筑紫野市の弁護士






『謡曲』のうち,『井筒』と『隅田川』のベースとなった
『伊勢物語』を読んでみました。

例によって,角川文庫のビギナーズ・クラッシックス
によって。

もちろん,授業等で断片的には読んだことがありますが
通読したのははじめて。

とはいっても,坂口由美子さんが
編んだ現代語訳によってですが。

「むかし,こんな男がいましたっけ。」ではじまる
茶目っ気たっぷりの現代語訳と解説つきです。

いうまでもなく,『伊勢物語』の主人公のモデルは
在五中将・在原業平。

父方も母方ももとをたどれば
桓武天皇にいきつく高貴な血筋。

ただし,政治的には不遇で
臣籍に降下。

貴族で歌人(六歌仙のひとり)であるだけでなく
美男で有名で恋多き人生。

ん?これってどこかで聞いたことがある?
そう,『源氏物語』の主人公・光源氏とそっくりですね。

紫式部も『源氏』を書くうえで
『伊勢物語』におおいにインスパイアされたらしい。

紫式部だけでなく,世阿弥など『謡曲』の作者たちも
インスパイアされたことは冒頭のとおり。

権勢家・藤原氏の娘で
天皇の妻になる予定の高子の略奪愛。

もっぱら神につかえるはずの
伊勢の斎宮との恋愛。

など禁断の恋がいっぱい。
手に汗にぎりますねぇ。

ベルばらのフェルゼンとマリーアントワネットみたい。
いや,逆か?

『伊勢物語』は和歌を中心とする歌物語で
『古今和歌集』の成立と表裏の関係にあるらしい。

ほとんどの和歌が
古今集にも収録されています。

  ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
          からくれなゐに 水くゝるとは

これは小倉百人一首にも
撰歌されていますね。

  世の中に たえて桜の なかりせば
         春の心は のどけからまし

  忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや
         雪踏みわけて 君を見むとは

  から衣 きつつなれにし つましあれば
         はるばるきぬる たびをしぞ思ふ

  名にし負はば いざこと問はむ 都鳥
         わが思ふ人は ありやなしやと

これが昔男が東下りして『隅田川』を渡るときに見かけた
都鳥(ユリカモメ)を踏まえた和歌。

  月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ
         我が身ひとつは もとの身にして

『伊勢物語』は,和歌を中心に組み立てられていることもあり
言葉すくなくものたりない印象。

でも,じゃたくさん言葉をついやせばいいかというと
そういうものでもない。

そのことを教訓的に示すのが
『大和物語』の存在。

これは『伊勢物語』とおなじことを
説明的にくどくどと語っています。

くどくどと説明されると
われわれのイメージはしぼんでしまう。

逆に,おおくを語らず余白が残されることにより
インスパイアされる…。

勉強になりますねぇ。

                     弁護士 浦田秀徳


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