AIくんの記事の出来がいいので、もはやこちらの記事の品質が問われつつあるように思う。が、恥をしのんで書いてみよう。
『BUTTER』は首都圏連続不審死事件を題材にしたフィクションである。based on a true storyとかinspired by a true storyとか映画字幕にでるやつ。
首都圏連続不審死事件は、ぱっと見さえない(きょうび、このようなことを発言するには勇気がいる。が、これも小説のテーマである。)とされる被告人なのであるが、多数の愛人が存在し、そのうち少なからぬ男性が不審死していたという事件である。
さらにすごいのは、少なくとも3度の獄中結婚を繰り返したこと。3度目は『週刊新潮』のデスクの男性である(文春砲)。
なぜ、被害者たちは被告人に騙されたり、死に追いやられたりしたのか?(被告事件なので、弁護士としては報じられている事実関係にそのまま乗っかるのは気がひけるのであるが、ここは乗っからないと話がうまく流れないのでご容赦あれ)事件を知った多くの人が抱いた疑問である。
この疑問に答えを見いだすべく、多くの記者たちが独占取材を申し込んだようである。その結果生まれたのが上記獄中結婚である。われわれにとって獄中結婚とは加藤登紀子なので、それからするとすこし奇異な感じを否めない(当事者たちは真剣なのだろうが)。
このような特殊な事件であるから、小説家のインスピレーションをインスパイアさせずにはおかない。
通常、事件ものといえば、頭も心も信念も不動の刑事、探偵、弁護士などが事件の真相を追究し解決するというプロットである。しかし『BUTTER』は、追求するはずの事件記者が被告人にあうたびに動揺し、変容を迫られてしまう。
単なるコミュニケーションにとどまらず、相互作用を生じ(たように見せかけて)、ついには被告人から操られていたということまで判明する。
これは著者・柚木さんの独創ともいえない。トマス・ハリスの『羊たちの沈黙』でも、若きFBIの訓練生クラリスがハンニバル・レクターから影響を受ける場面はあった。それでも羊沈のばあい、彼我の力量に圧倒的な差があり、われわれも安心して鑑賞することができた。
しかし『BUTTER』のばあい、彼我の力関係が不明であるなか、両者の攻防がおこなわれるので、読んでいるこちらも不安な気持ちにさせられるのである。
『BUTTER』はイギリスでも売れているらしい(きのうの写真の帯を参照)。文庫のカバーをひっくり返すと、英語版の表紙に早変わり(写真)。ストーリーがあざなえる縄のごとく裏表ひっくりかえることを暗示しているのであろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿