2025年7月11日金曜日

大雪山~トムラウシ山縦走(2)『芭蕉紀行文集』(岩波文庫)

 

 避難小屋だけで山中2泊3日となると、ザックの重量は15kgくらいになる。

 いちばん重たいのは一眼レフカメラである。そろそろ体力と相談して軽いものに替えようかとも思う。100名山を踏破したときは、コンパクトカメラだった。その後、九州の登山雑誌「のぼろ」に大崩山の写真を提供しようとしたとき、コンパクトカメラの画像ではダメだといわれたことがあった。それがきっかけで山に一眼レフをもっていくようになったのだけれど、そろそろ限界かとも思う。

 つぎは着替えだろうか。レインウエア、帽子を含む。3日間おなじ服でもよいのだが、地上に降りたときに廻りに迷惑をかけることになる。寒さ対策や、雨に濡れたときの着替えも必要である。その他前乗り、後泊のことも考えると、けっこうなボリュームになってしまう。

 このコースでは水の重さも無視できない。北アルプスなどの営業小屋であれば、水を無償あるいは有償で提供を受けることができる。しかし避難小屋なので、自分で調達しなければならない。雪渓の雪解け水は豊富である。が、そのまま飲むとキタキツネの糞にふくまれるエキノコックスに感染してしまうおそれがある。煮沸が必要である。それを最低でも2リットル=2キログラムくらいは持ち運ぶ必要がある。

 食料は乾燥させたものが多い。その他行動食(疲れたときは乾燥させたものより、ゼリー状のものが喉をとおりやすい。すると重くなる。)。シュラフ、スリーピングマットなど。バーナー、ガスボンベ、ナベ類、ダスター。トレッキングポール。コンパス、ココヘリ、クマ鈴、薬、日焼け止め。簡易テント、携帯トイレなど。

 最後に悩むのが本である。むかし患者の権利法をつくろうということで、医療問題研究会で欧州を7日間ほど視察したことがあった。メンバー10人くらいのなかに辻本育子弁護士がいらしたのだが、荷物のなかに10冊くらい本を持参されていた。一般には2~3冊だったので驚くほどのボリュームだ。

 自身も認める活字中毒でいらっしゃる。旅の途中で本が切れるかと思うと心配でたまらない。結果、大量の本を持参することになる。読んだ本は他のメンバーに贈与したり、おしげもなく捨てたりされていた。いまでは電子書籍もあり、本は情報の塊にすぎなくなりつつある。当時はそこまでなくて、本を簡単に捨ててよいものだろうかと思った記憶がある。

 これほどではないが、自分も旅の途中で本が切れるのは心配である。たくさん持って行きすぎて失敗したなと思うことも多い。ほんらいならジョイスの『ユリシーズ』(集英社文庫)を4冊全部といわないまでも、1~2冊持って行きたいところである。

 しかし大雪山~トムラウシ山縦走となると、本を厳選する必要がある。本の重さで遭難したりすると洒落にならない。

 そんなとき頼りになるのは、『芭蕉紀行文集』(岩波文庫)である。うすい、全180頁。ジョイスの『ユリシーズⅠ』が687頁あるのと比べれば3分の1未満である。

 『芭蕉紀行文集』は、「野ざらし紀行」、「鹿島詣」、「笈の小文」、「更科紀行」、「嵯峨日記」からなる。作者はもちろん松尾芭蕉である。

 紀行文集であるから、旅情をかきたててくれ、旅のおともにもってこいである。短篇集のようになっているから、読みやすい。それでいて近世の文章であるから、適度に難解である。滋味深く、繰り返し読んでも退屈しない。もう4~5回は読んだと思うが、飽きない。

 旅のおともとなると、ふつうは流行作家の推理小説というところだろう。空港や駅の本屋のラインナップをみればわかる。しかし180頁の推理小説など読んでしまえば、2度と読み返す気にはなるまい。そこが『芭蕉紀行文集』との違いである。

 じつは山中で読む機会はほとんどないのである。が、これがザックに入っていると思うだけで安心である。じつに心強い。

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