2026年2月17日火曜日

『山姥(上・下)』(坂東眞砂子著・新潮文庫)(4)

 

 写真は越後駒ヶ岳である(2018.5.12)。

 坂東眞砂子の『山姥』は、駒ヶ岳の北麓の村、その近くの鉱山と白銀の狼吠山を舞台にしている。

 「・・・青く澄んだ空の縁を切り取る白銀の山嶺。白い斜面に荒い刷毛で撫ぜたような墨色の線を描いているのは、葉を落とした木々の影。・・・よく晴れているおかげで、遠くの山まで見晴らせた。南の山々の向こうにちょこんと飛びでているのは駒ヶ岳、北のほうで狼の歯のようにぎざぎざした山頂を聳えさせているのは、狼吠山だ。狼吠山から流れてくる童子川は氷りつき、知っている者でないと、どこを流れているかわかりはしない。一年も、この季節ともなると、妙の住む明夜村の家々はすっぽりと雪に埋まり、・・・」(上巻13頁)。

 越後駒ヶ岳には3度登ったことがある。標高2003mの日本百名山。八海山、中ノ岳とともに越後三山を構成し、どっしりとした山容。豪雪地帯にある山であるから、遅くまで雪が残り、高山植物が咲き乱れるときは別天地である。大好きな山である。

 越後三山の西麓はあの魚沼である。コシヒカリで有名な。豪雪は二義的。厳しくつらい冬ももたらすが、おいしい雪解け水、おいしい米ももたらす。さらに八海山というお酒をご存知のかたも多かろう。おいしい水とおいしい米はおいしいお酒ももたらすのである。

 駒ヶ岳に登るときは、いつも北麓にある駒ノ湯温泉を登山口としているので、北嶺の地理には比較的あかるい。小説を読みながら、あのへんかな、このへんかなと考える。駒ヶ岳の東麓には銀山平という鉱山跡もある。 

 しかしながら狼吠山という山は実際にはない。作者の創作である。狼吠山という名前、ぎざぎざした山頂、山岳信仰の山であること、東峰と西峰があることなどからすれば、モデルは秩父(埼玉)にある両神山かと思う。

 両神山も百名山。やはり山岳信仰の山であるし、山中、山麓の神社では、狛犬のかわりに狼の石像が鎮座している。山頂もぎざぎざしている。

 狼吠山のモデルが両神山だとすると、坂東眞砂子はかなり山に登っているはずだ。あるいは、取材するなかで、山に詳しい人物に出会ったか。

 大学の部活の友だちがライングループにアップしていた写真。かれは両神山のふもとに住んでいる。山好きのDNAは健在である。両神山のむこうに日が沈み、西の空が美しくやけている。たしかに山頂はぎざぎざしている。狼や神が跋扈していてもおかしくない神々しい姿である。

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