2025年8月27日水曜日

『乱れる』

 


 お盆休み中にみた映画の話題のさらなる続き。NHKーBSでやっていた映画『乱れる』(1964年)。初見である(なにせ、自分が5歳ころの映画なので)。高峰秀子と加山雄三主演。あるいは高峰秀子主演、加山雄三助演かも。乱れるの主語は高峰秀子だから。

 高峰秀子といえば、われわれの世代には、上原謙(夫役)と出演した1982年の国鉄CMフルムーンである。温泉入浴シーンが話題となった。上原謙と夫婦役を演じるまえに、息子と男女関係を演じていたとは知らなかった。以下ネタバレ。

 乱れるとか、男女関係といっても、濡れ場はいっさいなし。最後のところで、加山がキスをしようとするが、高峰はこれを拒絶。時代のなせるワザなのか、表現者の意図なのか、抑制された表現。

 舞台は静岡県清水市にある古くからの商店街。高峰はそこの酒屋の長男に嫁いできたものの、まもなく長男は戦死。残された彼女は戦火で焼けた酒屋を切り盛りして建て直していた。

 夫の実家には姑や小姑のほか、長男の弟である加山がいた。嫁いできたころは幼かった彼だが、そのころには成人して立派な若者に成長していた。しかし遊び歩いていて店の手伝いをしようとしなかった。

 そうしたおり、商店街にはスーパーが進出してきて、安売りをどんどんしかけてきた。結果、古くからの商店は太刀打ちできず、経営が悪化し、ついには自死する商店主まで。

 こうした事態に、小姑、その配偶者らは、店をスーパーに改造して生き残りをはかろうとする。そうなると、高峰は婚家に居場所がなくなってしまう。

 加山はひそかに年上の高峰を愛していて、彼女と結婚したいという。かくて彼女の心中は乱れに乱れるのだった。

 結果、高峰は実家のある山形県新庄市に帰ろうとする。加山はそれを追いかけて同じ電車に乗る。車中で心情をあたためた二人は大石田駅で降り、銀山温泉へ向かう(というわけで、高峰は、役のうえとはいえ、パパと温泉に入るまえに、息子と温泉に向かったのだった。)。

 大石田とか、銀山温泉とかいっても、九州人には馴染みがうすい。大石田は『おくのほそ道』で芭蕉が旅したところ(写真、清風歴史資料館)、銀山温泉は『千と千尋の神かくし』の舞台のモデルになったところ。

 共同体のなかでは暗黙の決まりにしばられるが、旅ではそれから解放される。カラを破って変化するには旅にでる必要があるのかもしれない。しかし高峰と加山はついに結ばれることはない。そして悲劇に終わる。

 『乱れる』と『日の名残り』はいわゆる物語の構造がよく似ている。物語の背景をなすのは価値観の転換期である。両者とも第二次世界大戦の転換期である。古くからの商店街にはスーパーが進出して、商店主たちの価値観は揺らいでいる。

 高峰は古くからの価値観に、加山は新しい価値観に立脚している。最後、二人の愛を隔てたのはこの価値観の違いである。年の差、姑・小姑たちの視線などの壁であれば、旅や温泉効果で乗り越えることが可能だったかもしれない。しかし価値観の違いだけはどうしようもなかったのである。

 ま、それも1964年当時の価値観を前提としている。BSではいま1983-85年当時の金妻シリーズをやっている。20年後の価値観をもってすれば、高峰と加山の愛は簡単に成就したことだろう。しかしそうなると、映画にし、われわれを感動させるだけのドラマとなりえない・・・。

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