2023年9月5日火曜日

『極楽征夷大将軍』

 


 ジュンク堂へ寄ったら平積みしてあったので、買ってみた。垣根良介の『極楽征夷大将軍』。直木賞受賞作。

日本史のなかで苦手なところは多々あったけれども、そのなかの1つが室町時代。足利義満のころを別として、前半(南北朝時代)も後半(戦国時代)もゴチャゴチャしている。苦手克服のためもあって読んでみようと思った。

去年のNHK大河『鎌倉殿の13人』のつづきということもある。鎌倉時代は源頼朝にはじまり、頼朝の子孫が支配した時代と思ってしまいがちだが違う。

伊豆の地方豪族だった北条家が頼朝の子孫を根絶やしにしてしまう。執権となり、やがて得宗専制政治となった。『鎌倉殿の13人』は有力御家人を北条時宗(小栗旬)がつぎつぎと粛正していくドラマだった。

鎌倉時代末期は、霜月騒動で、安達泰盛まで粛正されてしまう。鎌倉幕府の終わりの始まりは、北条得宗専制が窮まったところからはじまる。

極楽征夷大将軍とは足利尊氏のことである。むかし、足利尊氏といえば、ヒゲをたくわえた騎馬武者姿が印象的。しかしいまではあれは尊氏像ではないとされている。ことほどさように、尊氏の実像はわかりにくい。

尊氏の実像が分かりにくいのは『太平記』にも責任があるように思う。『平家物語』のように名作であれば、誰もが読んで知っているということになったであろう。しかし『太平記』は読みにくい。通読などできない。

足利というぐらいだから関東の人間である。しかし九州とも縁が深い。建武の乱で新田義貞に敗れて後、九州に下ってきて捲土重来を期している。

そこで少弐氏の支援を受けたり、宗像大社を参拝したり、四王寺山麓(原八坊跡)に奇遇したり、多々良川の戦いに勝利したり。おなじみの人名、地名が点在している。これらの点も読めるといいなと思った。

しかし・・。あまり面白くない。垣根良介はきらいではない。『君たちに明日はない』や『光秀の定理』はおもしく読んだ。

『極楽征夷大将軍』のテーマは、帯にあるとおり。やる気なし、使命感なし、執着なしの足利尊氏。簡単にいうと極楽トンボ。なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?

このようなクエスチョンをたててしまったため、その回答に終始してしまう。尊氏は昼あんどん状態、でも武門の統領としての名声はうなぎのぼり。そうした実像と虚像の乖離をみて弟の直義や執事の高師直がやきもきを繰り返す。・・それの繰り返し。

同時並行で読んでいるのがジョイスの『ユリシーズ』ということもあるだろう。こちらは1行ごとに、スリリングな謎が隠されている。他方『極楽』のほうはいつまで経っても極楽なままだ。後半はちがうかもしれない。期待しよう。なにせ直木賞受賞作なのだから。

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