2010年9月18日土曜日

 押尾学被告のつながり


 
 押尾学被告に保護責任者遺棄罪の実刑判決。
 死亡との間の因果関係は認めず、致死罪は不成立(一部無罪)。
 有名人に対する初の裁判員裁判として注目を集めました。

 保護責任者遺棄致死罪の成否を判断するには、刑法各論だけでも以下の3つの条文を踏まえる必要があります。
 
 老年者、幼年者、身体障害者または病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、またはその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する(刑法218条)。

 その罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、思い刑により処断する(刑法219条)。

 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する(刑法205条)。

 保護責任者遺棄致死罪は結果的加重犯です。
 結果的加重犯とは、犯罪行為をなした際、予想していた以上の悪く重い結果を引き起こしてしまった場合に、その悪く重い結果についても罪に問い、より重く科刑する犯罪のことをいいいます。
 この場合でも、犯罪行為と死亡の結果との間につながり(因果関係)が必要です。

 同種事案における因果関係について、最高裁判決があります。
 「被害者の女性が、被告人らによって注射された覚せい剤のため錯乱状態に陥った午前0時半頃の時点において、直ちに救急医療を要請していれば、同女の救命は十中八、九可能であり、合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為(不作為)と午前2時15分頃から同4時頃までの間に同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、因果関係が認められる」というものです(最決平1・12・15)。

 難しいことを言っているようですが要は、遺棄行為と死亡の結果との間のつながり(蓋然性)が80%以上必要であるということです。
 同じような状態の患者が100人病院に運び込まれて70人しか救命できないのであれば因果関係が切れるということです。
 刑事裁判にかぎられたことではなく、民事裁判においてもおなじようなハードルを越えることが要求されています。

 検察側の医師は80~90%助けられた、弁護側の医師は30%程度しか助けられないと見解が分かれたこともあり、本件では因果関係が否定されています(このような統計データがあるとも思えないので、それぞれの医師の経験に基づく見解だったのでしょうか?)。
 薬物事案だけを先に立件したという経緯にてらし、保護責任者遺棄致死での立件は困難と捜査当局も判断していたことがうかがわれることからしても、因果関係を認めることは困難だったのだろうと思います。

 男女のつながり(関係)を裁く場として法廷が適切であるとは思えません。が、他に適切な選択肢がないというのもほんとうです。

                                              やま

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