相談者の訴えと所持されている証拠に基づき、勝敗の見通しをつけ、その説明をする。
勝敗の見通しは3種類である。①勝ちそう、②負けそう、③勝ち負け五分五分である。数学の解答ではないので、23.7%というような見通しはない。ざっくり7割程度勝ちそう、7割程度負けそうである。
7割程度勝ちそうであれば、①勝ちそうの判断となる。いわゆる業界用語で勝ち筋というやつである。
勝ち目が3割に満たないと判断すれば、②負けそうの判断となる。いわゆる負け筋である。
ときにどちらとも判断できないことがある。勝ち負け五分五分ということになる。
相談者に対し「負け筋と思います。」と説明すると、反論してくる人が多い。気持ちはよく分かる。自分に正義があると思えばこそ相談に来ているのである。
しかし正義が勝つとはかぎらない。証拠が乏しいために涙を飲まなければならない事件も多い。
相談室で、相談者と弁護士とが対面して会話しているので、相談者の言い分を弁護士が個人的に否定したように受け取られることもある。
しかし弁護士の個人的な意見を述べているのではない。勝ち負けの判断の本番は、相談室ではなく、裁判所で行われる。それも裁判の結果であるから、1年後くらいである。われわれ弁護士による勝敗の見通しは、この1年後に裁判所でおこなわれる裁判官の判断についての未来予測である。
100%正確ということはない。100%正確な判断ができるのであれば、弁護士をやめて、未来予測業に転職しようと思う。きっと繁盛するはずだ。
いまできるのは、弁護士としての40年の知識と経験に基づき「裁判所は負けさせる可能性が70%程度ありますよ。」というアバウトな判断にすぎない。
そのように判断したので「負け筋と思います。」と説明したのである。このような弁護士の見通しに反論されてもあまり意味はない。
この次にやってくるのは「負けてもいいからやって欲しい。」という依頼である。相談時には頭にきていることが多いので、こういう依頼になりがちである。
しかし1年経って、裁判官から「こちらの負けですよ。」と言われるときには、冷静になっていることが多い。そして後悔することが多い。
負け筋の事件を絶対に受任しないかと言われると、そうではない。憲法訴訟や人権訴訟は、ふつうに考えれば負け筋の事件が多い。世の中には、負けるかもしれないが、戦わなければならない争いもある。
その場合は重々説明し、十分な理解と納得を得たうえで、お引き受けをすることになる。
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