2025年4月8日火曜日

法律相談ー確率的な未来予測と行動指針(1)

 

 弁護士の仕事のなかで、簡単なようでいて、実はいちばん難しいのが法律相談である。

 法律相談は、医者でいえば、初診と診断である。まず相談者の訴えを傾聴する。相続、離婚、破産、不動産、登記、売買、賃貸借、請負、雇用、不法行為、会社経営など相談内容は多岐にわたる。

 相談者が話し上手とは限らない。30分経っても、論旨不明ということがよくある。間の手の入れ方も難しい。下手に話の腰を折ってしまうと、最初からやり直しになりかねない。

 法律問題は3段論法により解決される。小前提たる前提事実、大前提たる法律や判例、前者の後者へのあてはめである。論理的に結論は一つでありそうだが、そうではない。数学のようにはいかない。

 相談者がすべてを語っているとは限らない。自己に不利な事実については口をつぐんでしまうのが人情である。

 相談者が語っているのが客観的事実とは限らない。われわれは時に自己に都合のよいように事実を曲げてみてしまう。

 相談者が語っているのが客観的事実だとしても、証拠をもって裏付けられるとは限らない。水戸黄門で風車の弥七が天井裏でお代官と越後屋の陰謀を聞くようにはいかない。

 医者であれば問診のあと、血液検査やレントゲン検査をしながら、診断精度を高めていくことができる。しかし、弁護士の場合、相談者が所持している証拠がすべてではないという限界がある。通常、相手方の手もとにも半分の証拠が存在する。両者の証拠をあわせたとき、はじめて事件の全貌が姿をあらわすことになる。

 裁判官の証拠評価もひとつとは限らない。裁判官の評価は政治家ほど幅があるものではないが、裁判官が替われば事実が変わることもないではない。

 法律もそうである。おなじ憲法9条からでも自衛隊合憲説と意見説の解釈が分かれる。民法の学習というのは、解釈の分かれを学ぶものだといっても過言ではない。

 判例はさらに難しい。射程という問題がある。世にまったく同じ事件というものは存在しない。類似した事件があるのみである。そうすると、ある判例が存在していて、本件がそれに類似しているとしても、その判例の射程内にあるとは限らない。

 かくて法律相談は、床屋談議ほどの幅はないにしても、弁護士によって、さまざまなバリエーションが存在することになる。

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