2022年7月12日火曜日

パニックの話


 きのうのつづき。『E.M.フォスター短篇集』の2つ目の作品「パニックの話」。これも異なる価値観をもつ者同士が接触することで引き起こされる出来事について描いたもの。舞台はアマルフィ海岸にある美しい町と山中。当時のイタリア、アマルフィはとてもエキゾチック。

 むかし(2009年)織田裕二主演で『アマルフィ 女神の報酬』という映画があった。イタリアを長靴にたとえれば、アマルフィはくるぶしの前あたりにある。カプリ島にある青の洞窟とともに当時の観光名所だった。

子どもとイタリア旅行に行った際、アマルフィや青の洞窟へ行かないことについて意見が分かれた。ローマからアマルフィやカプリ島を訪れるとなると1週間ぐらいの日程のうち2日間もとられてしまう。日本で言えば、京都観光をしないで天の橋立観光をするようなものだ。そう言ったが、なかなか聞いてもらえなかった。これもまた異なる価値観をもつ者同士が接触することで引き起こされる出来事だった。

日本では古来神道に舶来の仏教をうまくブレンドしてきた(導入期と明治の廃仏毀釈期を除く。)。欧米のことはよく分からないけれども、古い信仰のうえに、キリスト教が上から制圧したため、ときどき古い神々が怒って噴出している印象がある。

この作品で怒って噴出する神はパーン。ギリシア神話に登場する神で、牧神である。ドビュッシーに「牧神の午後への前奏曲」という作品があるけれども、あれである。

ドビュッシーのおだやかな曲想とは異なり、本作のパーンは恐怖のイメージである。日本でいえば、人間に悪さをする地霊神などの感じ。

パニックという言葉の語源はパーンにあるらしい。古代ギリシア人は、家畜の群れが突然騒ぎだし集団で逃げ出すのは、牧神パーンの影響によると考えた。知らなかった。

本作は欧米の現代的価値観のなかでダメだしをくらっていたユースタス少年が、突如パーンに捕らわれ、・・・する話。不思議な読後感。

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