2017年12月18日月曜日

『雪国』と『おくの細道』と銀河


 山歩きをしていると,高山植物や山岳の美しさだけでなく,真っ赤な日没,日の出,流れる雲,キラキラする空気や天空の美しさにも心を奪われます。

 山小屋に泊まると,夜中にごそごそ起きだす人たちがいます。用をたしにいくのかと思いきや,外できゃーとか言っています。なにをしているのかというと星空を嘆賞しているのです。もう満天の星空,降るような星々です。忘れていた子どものころの記憶が鮮やかによみがえります。

 こんかい『雪国』をよみかえしてみて思ったのは,能の理解による読みの気づきだけではありません。人間ドラマの背景として描かれている自然の美しさにも瞠目しました。上越国境の山々,雪山の美しい情景は見たことのある人とない人では,やはり感動のしかたがちがうと思います。そして芭蕉の句のあざやかな援用。悲劇的な結末の場面。

 「天の河。きれいねえ。」
 駒子はつぶやくと,その空を見上げたまま,また走り出した。
 ああ,天の河と,島村も振り仰いだとたんに,天の河のなかへ体がふうと浮き上がってゆくようだった。天の河の明るさが島村を掬い上げそうに近かった,旅の芭蕉が荒海の上に見たのは,このようにあざやかな天の河の大きさであったか。裸の天の河は夜の大地を素肌で巻こうとして,すぐそこに降りてきている。恐ろしい艶めかしさだ。島村は自分の小さい影が地上から逆に天の河へ写っていそうに感じた。天の河にいっぱいの星が一つ一つ見えるばかりでなく,ところどころ光雲の銀砂子も一粒一粒見えるほど澄み渡り,しかも天の河の底なしの深さが視線を吸い込んで行った。
                         『雪国』より

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