2017年12月7日木曜日

改正民法2020年4月施行へ,筑紫野市の弁護士の解説(1)


            (天竜寺の紅葉)

 われわれの仕事のたいはんは,民事事件です。民事事件は,市民どうし,市民と企業,あるいは企業どうしの争いです。これを解決するルールが民法です。

 民法は,市民法の略です。わが国の民法は,近代化を急ぐ明治政府により西欧から輸入されたものです。それ以前の江戸時代までの日本法(武家諸法度など)とは断絶があります。法制史は履修していないので,間違っていたらご免なさい(以下もおなじ)。

 古代ローマは,土木建築とともに法の達人であったことでも,すぐれた民族であったと思われます。すなわち,少なくとも2,000年以上前からいまの民法の前身があったと思われます。ただし,判例法だったようです。判例法というのは,いまの英国などもおなじで,国会で一般的・抽象的な法律をつくるのではなく,具体的なA対Bの裁判の結果を積み重ねてルールが形成されていくものです。

 古代ローマ法もいったん文明から失われますが,やはりルネッサンスとともに見直されます。近代の市民法として画期なのは,ナポレオン民法典です。フランスでは市民革命がおこなわれて,市民が誕生したわけなので,その市民どうしの争いを解決する市民法が名実ともに成立したわけです。

 明治期の民法は,ナポレオン法典の系譜もありますが,直接的にはドイツ民法の流れをひいています。当時,富国強兵策をとっていた明治政府にとっては,普仏戦争に勝ったドイツがお手本だったわけです。

 ドイツでは,古代ローマ法をそのまま利用しないで,これを一般的・抽象的な体系に整理しています(パンデクテン方式)。民法の勉強をはじめたときに,最初,総則からはじまり,非常に抽象的で分かりにくいのはそのせいです。それでも,制定法の利点は,判例法に比べて,ルールが明確ということがあります。アメリカの弁護士ドラマなどを見ていると,すばらしい記憶力をもつ主人公がつぎつぎと関係判例を挙げる場面に遭遇しますが,逆に言えば,普通の記憶力しかない一般人にはルールが分かりにくいということです。

 民法は基本法と呼ばれています。司法試験では民法を制するものは司法試験を制すといわれていました。商法や労働法などは,民法の特別法です。民法を理解していなければ,どこがどう特別なのか理解できないわけです。行政法の解釈なども,民法を参考にしておこなわれてきています。民法が基本法と呼ばれるゆえんです。

 民法が基本法であるせいか,1896年(明治29年)の制定以来なんと120年間,おおきな改正がありませんでした(婚姻,相続は別。新憲法になり,これらは個人の尊厳,男女の平等の理念に基づき,抜本的な改正がなされています。ここで話題にしているのは財産法,とくに債権法関係です。)。そもそも外国からの輸入品ですから,日本社会の実情とのズレがあったと思われます。その後,みなさんもご承知のとおり,日本社会のほうも大きく変わりました。そのため,民法の条文と現代日本社会との間に多くのズレが生じてしまっています。制定法のメリットであるルールの明確性が損なわれてしまっているわけです。そのため,そのようなズレをなくそうというのが,今回の民法改正です。

 とはいっても,そのようなズレは放置されてきたわけではありません。明治いらい今日までたくさんの判例法が形成され,積み重ねられててきています。判例法というのは,民法の条項をそのまま事案にあてはめると不都合を生じる場合になされること多いのです。今回の民法(債権法)改正は,それら判例を明文化したものがほとんどです。

 改正民法は,今年5月の国会で成立しました。成立と同時,あるいは,すみやかに施行という法律も少なくありません。しかし,民法は基本法中の基本であり,国民の社会・経済生活に与える影響も甚大です。それゆえ,施行は2020年4月になるようです。成立から数えて3年後ですね。非常に慎重です。その間に周知が図られるでしょう。当ブログでも改正点について,すこしずつ,おいおい解説をしていきたいと思います。乞うご期待。

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