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2011年12月22日木曜日

『クライマーズ・ハイ』(7) by.山歩きの好きな福岡の弁護士



 新聞記者・新聞づくりはほんとうに厳しい仕事
 おつきあいが難しい人種であるのも、そこに由来しています。

 なにせ、毎朝(毎夕)、4~5紙を並べて
 成績発表がなされるわけですから。

 どこかがスクープしてても、どこかがネタを落としても
 一目瞭然です。

 弁護士が訴状を作成するとして、お客さんが5人の弁護士に依頼して
 毎朝比べられたりしたらと思うと大変です。

 (新聞は大量生産品であるのに対し
  弁護士の仕事は一品ものである違いでしょうか)

 新聞の場合、同じ内容で何百万人もの読者が
 その情報をもとに行動するという重圧もあります。

 天気予報ひとつとっても、ハズレた日には
 苦情の電話が殺到しているのではないでしょうか?

 記事の質の良さが販売部数と直結するわけではないとしても
 記者・編集者としては記事こそが商品です。

 他社に負けない商品を提供したい。
 これぞ記者魂でしょう。

 もともとこうしたドライブがあるところに
 未曾有な大惨事が飛び込んできたわけです。

 主人公の悠木もまわりのメンバーも極度の興奮
 =クライマーズ・ハイ状態に陥ります。

 つまり、自分を見失い、道を見失い
 事故を起こしやすい危険な状態です。

 日ごろ伏流していた社内の人間関係の軋轢やヒビ割れも
 顕在化し、怒号が飛び交います。

 そのような状態のなかで
 難しい決断をつぎつぎに迫られます。

 とくに悠木をいらだたせたのは
 自分で現場を踏んでいないという焦燥感。

 やはり現場百回、われわれの仕事に通じます。
 現場を踏まない判断に自信がもてないのは当然でしょう。

 悠木が見失っていた自分と道を再発見するきっかけは
 事故遺族が社に新聞を求めてやってきたこと。

 被害にはじまり被害に終わる
 これもまた弁護士と共通するセオリーでしょう。 

 ハイライトは、墜落事故原因について報道するかどうか
 甲論乙駁、社内の意見は鋭く対立し、収束しません。

 判断は全権の悠木に委ねられ
 彼は確証なしと判断し、報道しない決断をします。

 しかし翌朝、他社がこれを報道し、事後的にみれば
 悠木の判断が間違いだったことが判明します。

 間違った作為(フォールス・ポジティブ)ではないものの
 間違った不作為(フォールス・ネガティブ)です。

 しかしレトロ(事後的に過去を振り返ってみて)の誤判断が
 プロ・スペクティブにも(事前の判断として)誤判断とは限りません。
 
 悠木の胸中には、クライマーズ・ハイ状態の自覚があったでしょうし
 間違った報道をしたばあいの遺族の心痛への配慮もあったでしょう。

 これに対し、社を辞めるきっかけとなった論点は、事故世論の下
 読者の声欄に、一命の尊厳性を訴える投書を掲載する勇気。

 まったく鮮やかな
 対比です。

 『クライマーズ・ハイ』はスペクタクルな印象ですが
 実は「行動しない勇気(悠木?)」と「行動する勇気」を描いています。

 ラスト、悠木が谷川岳・杖立岩という「現場」を踏んで
 自己を回復するようにみえます。やはり現場を踏まねば。

 大なり小なり日々決断を迫られるわれわれにとって
 思わずうなりたくなるしぶい小説です。

              ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳

2011年12月16日金曜日

『クライマーズ・ハイ』(3) by.山歩きの好きな福岡の弁護士



 弁護士になりたてのころ
 こんな事件がありました。

 ある男性(夫)からの依頼。妻が警察官と不倫したので
 慰謝料を請求したいとのことでした。

 相手が相手なので
 妻の証言だけでは弱い。

 証言の裏をできるだけ
 とることにしました。

 いっしょに入ったという
 ラブホテルにも行きました。

 保安上ラブホテルは自動車のナンバーを控えているので
 当日、証言どおりの自動車が出入りした裏付けが得られました。

 家出中の妻の仕事先をその警察官が紹介していたので
 そこへも行きました。

 中洲・南新地のソープで
 ま昼間から調査に行くのはちょっと気がひけましたが。

 当時は、キャナルシティ(96年オープン)が建つ前ですから
 いまよりずっと入りにくい雰囲気でした。

 かくして証拠を固めたうえ交渉しましたが
 ラチがあきません。

 そこで提訴しました。
 予想されたことですが、被告側は頑強に否認。

 それでも証人尋問が終わったところで
 裁判官が被告側に和解を勧告しました。

 「妻をソープ(受付ですが)に紹介していて
 男女関係が無かったという心証はとれない」と。

 その結果、被告側も観念して
 慰謝料を支払う話となりました。

 被告が金策をするのを待つあいだ
 もう一期日が必要になりました。

 その間、どこからか事件のことを聞きつけて
 ある記者くんが取材にきました。

 「慰謝料を払う以上、不倫を認めたことになりますよね?」
 「ま、普通そうでしょう。」

 ところがその後、記者くんは被告側の弁護士からも
 アホなことに、コメントをとろうとしたらしい…。

 しばらくして裁判所から、和解条項に「和解成立後、事件のことを
 口外しない」という1項を入れたいと連絡がありました。

 被告側の弁護士が裁判官に泣きついてきたそうな。
 ま、普通そうなりますよね。

 依頼人の意向を尊重して
 不本意ながら和解を成立させました。

 和解後、記者くんから和解内容の確認を求められましたが
 「ノー・コメント」。

 その対応えに、記者くんはプリプリしてましたが
 「お門違いでしょう。」といいたい気持ちでした。

 マスコミとのお付きあいの難しさを学んだ
 最初の経験でした。

 (注:相手方のコメントをとるなといっているのではなく
 時期が悪いといっていだけなので、念のため)

                ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳