2012年12月26日水曜日
『完全黙秘の女』
法律家の書いた文章は悪文である
と,よく言われる。
そのとおり。
いやになる。
誤解を避けるためといわれる。
ほんとうだろうか。
弁護士には
本を書く人がおおい。
なかには
小説に手をだす人もいる。
でもなんというか
やはり準備書面調。
準備書面は民事訴訟にあって
当事者の主張を詳しく説明するもの。
弁護士の小説も説明であって
表現でないことがおおい。
自費出版の愛好家がおおいことと
相関関係にある。
弁護士としての能力と
小説家としてのそれは別ものだ。
そうしたなか
法坂一広さんの快挙だった。
『弁護士探偵物語 天使の分け前』(宝島社)
『このミス』大賞を受賞。
文章の実力により
本屋で平積みになった。
『完全黙秘の女』(宝島社)は
弁護士探偵物語の第2段。
文章は前作よりこなれて
ますます上手くなった。
1行ごとになにがなんでも
うんちくを語る。
その語り口はあいかわらずだけれど
くさみは減った。(慣れただけかもしれない)
シリーズものの強みで
作品世界に入っていきやすい。
福岡市とその近郊が舞台になっていて
なじみやすい。
弁護士や裁判官の生態,弁護士業界の現況
刑事裁判の問題など,いろいろ勉強になる。
半分ほど読んだところで
犯人がわかってしまうのが難点。
でも犯人がわかっても
人間愛で読ませる。
なにより新人女性弁護士
土田さんの成長物語なのがいい。
法坂先生,こっそり
土田さんのメルアド教えてください。
2012年2月14日火曜日
『弁護士探偵物語 天使の分け前』 by.読書も好きな福岡の弁護士
雨ですねぇ。
一雨ごとに春めいてはきていますが。
昨日は更新していません。
のぞいてみてくれた方、すみません。
さる団体の旅行で
土曜から台湾に行ってました。
そのご報告はまたのちほど
ということで、本のつづき。
きょうは法坂一広さんの『弁護士探偵物語 天使の分け前』
(宝島社)。
どこの書店でも平積みになっているので
もうご存知でしょう。
福岡県弁護士会の名簿を法坂一広、法坂一広…といいながら
めくっていると、作者におもいあたります。
それほど本名にちかいペンネームです。
というか、巻末にも答えが載っています。
うちわ褒めを警戒しつつも
これはなかなかよくできていると思います。
本文中でも明かされているとおりレイモンド・チャンドラーの
私立探偵フィリップ・マーロウ・シリーズが下敷き。
『さらば愛しき女よ』や『ロング・グッドバイ』など
さいきんは村上春樹訳も出ているのでご存知の方もおおいでしょう。
(もっとも清水俊二さんの訳と村上春樹さんのそれとではかなり
世界がちがいます。だからこそ、新訳をする価値があるのでしょうが)
シャーロック・ホームズなどと趣が異なり
ハードなアクションも交えるためか、ハードボイルドものと呼ばれます。
シャーロック・ホームズもののばあい、筋の読めないワトソンくんと
対話しながら謎解きがすすみます。
でもフィリップ・マーロウもののばあい、そんな「相棒」がいませんから
対話がなく、どうしてもひとりでブツブツ言ってしまうことになります。
すると客観的視点が弱くなり
どうしても自己愛的世界がおおく語られることになります。
またひとりで動きまわることになって
あちこちに頭や体をぶつけます。
その結果、相手から響いてくる音や反応をたよりに
謎解きがすすむわけです。
謎解きの手法が対話と異なり、対象に体ごとぶつかっていきますから
話の展開がどうしてもハードボイルドにならざるをえません。
というわけで『弁護士探偵物語』。弁護士ものではリアリティを欠く
と考えたのか探偵ものをブレンド。
薬師丸ひろ子さんの『探偵物語』を
念頭においたわけではないようです。
文体もレイモンド・チャンドラーを彷彿とさせます。
これは立派。
そもそも法律家の文章は読みづらい。『悪徳の栄え』事件のころから
作家の先生がたからご批判をいただいているところです。
これはやむを得ないところもあります。詩的な文体の文芸作品に対し
二義的な解釈を排する文章を心がけているので。
弁護士をやっていればいるだけ
文章がスポイルされるわけです。
そんななか、法坂さんの文章は先輩諸氏と異なり
読みやすいと思います。
最初のころこそ違和感をおぼえますが
すぐに慣れ、作品世界にひきこまれます。
法坂さんがよほどの天才でないかぎり、一行一行に
相当の創意工夫が凝らされています。
ですから1,470円の単行本も安いと思います。
一読をどうぞ。
ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳
2012年2月10日金曜日
『蜩ノ記』
オリンパス事件をみていると
会社の不正を暴き、是正することの困難を思い知ります。
巨額の損失を「飛ばし」という手法で10年以上隠し続けた末に
これを不正な粉飾会計で処理した事件。
スクープとイギリス人社長の早期解任をきっかけに明るみに出て
株価も急落、会長らは辞任、会社は上場廃止の瀬戸際に。
ちょうどそのころ、私のところにも
公益通報者保護法関連の相談がありました。
法は、公益のために内部告発した人を保護する趣旨ですが
実際には陰湿ないやがらせを受けているというものです。
現代社会においてすらこうですから
封建社会において藩の不正を正そうとするのは命がけ。
葉室麟さんの『蜩ノ記』(祥伝社)はそんな様を描いたもの。
さきごろ直木賞を受賞しました。
葉室さんは九州の人なので
豊後のさる藩が舞台(大分県の中堅企業といったところか)。
山本周五郎の『樅の木は残った』(新潮文庫)によく似て
汚名をきせられつつも、誇り高く生きる主人公の姿勢が気持ちいい。
時代小説ですが、藩の中枢をめぐる謎解きがプロットになっていて
ミステリ仕立てになっています。
そしてこれまた
主人公は蟄居(自宅謹慎)中ゆえ、身動きがとれません。
というわけで
きのうにひきつづきアームチェア・デティクティブ風。
ワトソン(狂言回し)役はやはり
不祥事を起こして懲戒処分中の檀野庄三郎。
懲戒処分中?そういえば、この次に紹介予定は
法坂一広さんの『弁護士探偵物語 天使の分け前』。
現役バリバリのときはそれどころじゃないけど、懲戒されて
ヒマになると、世の不正を暴く心構えとヒマができるのでしょうか?
『蜩ノ記』を読みながら最近、悪代官と越後屋の
「おぬしも悪よのう」みたいな場面を見ないなぁ、とか
「お許しください。あれ~。」みたいな場面も見ないなぁ
とか思いました。
時代劇や時代小説をながらく見ていないのだから
あたり前か?
いや、『武士の一分』とか『たそがれ清兵衛』とかにも
出てきませんね。
藤沢周平さんらが
時代劇をより清新なものに変えたせいなのかな?
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