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2024年3月29日金曜日

弁護士の使命(3)南九州税理士会事件

 

 基本的人権の擁護が弁護士の使命だとしても、八百屋で果物を買うようによりどりみどりに事件を選ぶというわけにはいかない。

いまの日本にはロシアほど人権侵害が多発しているわけではないだろうけれども、暗数は相当ある。すべてに光をあてるべきだろうけれども、多年にわたる膨大な労力を考えるとすべてをすくい上げるというわけにもいかない。

それぞれの弁護士が弁護士になった地域や時期、そして所属することになった事務所や人脈によっても左右される。

福岡は人権侵害の宝庫と呼ばれていた。炭鉱事故事件、カネミ油症事件、サリドマイド事件、スモン事件、空港騒音訴訟、じんぱい訴訟等、日本の裁判所で争われた大規模な被害救済事件のほとんどが福岡で(も)たたかわれたからである。

そういった経験の蓄積もあり、福岡の弁護士は解決力が高い。何年も前に福岡では解決をみた事件を他地域では長々と争っていたりする。

それぞれの弁護士が弁護士になった時期も大きい。どうしてもその時期に世間を騒がせていた事件、解決が望まれていた事件に飛び込んでいくことになる。

ある先輩はカネミ油症事件に取り組むことになった。カネミ油症事件は、一審で勝利し、約27億円の仮払金を得た。しかし、二審で敗訴したため、最高裁が提示した低額和解を受け入れざるを得なかった。仮払金は原告被害者に分配されていたため、先輩はその返還交渉を担当した。これはつらい。

当職の場合、南九州税理士会事件に参画することになった。事務所所長である稲村晴夫弁護士の先輩であった馬奈木昭雄弁護士のお声がかりである。弁護士になる直前、1審判決がでて、勝訴していた。

南九州税理士会は、政治連盟に政治献金するため、会員から特別会費を強制徴収することを決めた。税理士会は、大型間接税(いまでいう消費税。逆進性が強い。)を導入する(税理士の仕事が増える)ため、政治連盟を通じて与党政治家に政治献金をおこなっていた。

ときあたかもロッキード事件の金権腐敗を世論がきびしく批判していた。牛島昭三税理士は、特別会費の納入を拒否。税理士会は同税理士の選挙権・被選挙権を停止処分にした。

牛島税理士は、特別会費の納入義務の無効確認等を求めて裁判を提起した。一審熊本地裁は牛島税理士の請求を認めた。

その二審の舞台は福岡高裁である。われわれはそのたたかいに参画したのである。途中から事務局長の大役を仰せつかった。・・・中略。しかしながら、われわれは福岡高裁で敗訴した。

・・・中略。われわれは最高裁で勝訴した。最高裁は、税理士会が牛島税理士に対し特別会費の納入を強制することは同人の思想・信条の自由を侵害し許されないとした。

団体の政治献金の可否に関する最高裁判決には、八幡製鉄事件がある。八幡製鉄が政治献金をしても問題ないという。企業が政治献金するのは、ワイロ性が高い。しかし最高裁はこれを認めた。

同じように税理士会が政治献金をすることについて、最高裁が許容する余地はあった。しかし、強制加入団体が政治献金資金を強制徴収することはいきすぎであると判断した。

思想・信条の自由という中核的な人権に関する最高裁判決であるため、有名である。憲法判例百選にも掲載され、司法試験の論文試験にも出題された。手もとの模範六法にも憲法19条の参考判例として紹介されている。

最高裁で勝利判決を受けたときには、「人類の多年にわたる自由獲得の努力」に連なることができた感激につらぬかれ、天にものぼる気持ちだった。

2012年1月19日木曜日

「運命の人」(3) by.山歩きの好きな福岡の弁護士



 そろそろ「宝満山は婚活パワースポットだった!」
 みたいな軽い話題に転じたいのですが、「運命」の話をもうすこし。

 実は原作者の山崎豊子さんも毎日新聞に在籍し
 あの井上靖が上司でした。

 『あすなろ物語』、『しろばんば』、『風林火山』、『真田軍記』
 『敦煌』、『天平の甍』などを書いた小説家です。

 大森南朋さん演じる読日新聞(読売新聞)の記者・山部一雄の
 モデルはあの渡邉恒雄さん。

 といわれてもピンとこないかもしれませんが
 巨人の会長としてなにかと物議をかもしているナベツネさんです。

 政治家から金をちらつかされて、受け取りを断るのが弓成で
 もっとよこせというのが山部なんだそうです。なるほど。

 それぞれ毎朝と読日を代表する記者で
 社風というかスタイルというかまで表現されているのでしょうか。

 理念に忠実で、政治の暗部と正面衝突する弓成のスタイルが
 政治の陰謀や圧力に潰されていくのは残念。

 でも山部は弓成とよきライバルで
 後に、報道の自由を守るために弁護側の証人に。

 ここら辺はやはり器の大きさを感じさせます。
 われわれにはできない振る舞いではないでしょうか。

 与野党の政治家はもちろん、政治評論家・三宅久之さん
 元警察庁長官・後藤田正晴さん、タレントの大屋政子さんも原作には登場。

 われわれの立場でよりなじみのある名前はやはり法律家グループで
 検察官、裁判官らはいずれも名のある人たちがモデルになっています。

 ひとりだけ挙げるとすれば
 柳葉敏郎さんが演ずることになる弓成の弁護人・大野木正。

 「表現の自由を守るために闘う第一人者で
 弓成の弁護を通じて報道の自由を勝ち取ろうと支援する。

 知性と人情を兼ね備えた人物で
 夫婦の危機に陥る弓成と由里子を温かく支える」らしい。

 モデルは大野正男さん。
 弁護士から最高裁判事へ。

 私が関与した南九州税理士会違法政治献金事件における
 最高裁判事のひとりでした。

 最高裁弁論のときは「うん、うん。」と
 首肯しながら聴いてくださいました。

 南九州税理士会違法政治献金事件は、税理士会が会員から
 特別会費を強制徴収して政治献金したのは違憲だと訴えた事件。

 最高裁は税理士会のような強制加入団体において政治献金を
 することは会員の思想・良心の自由を侵害すると判断しました。

 ただし、われわれは大野さんが最高裁内でどちらの立場で
 論陣をはるのか図りかねていました。

 というのも、当時、団体の政治献金については
 二つの最高裁判決がありました。

 八幡製鉄事件と国労広島地本事件。
 前者は政治献金OK、後者はダメという結論でした。

 会社は政治献金してもいい、でも労働組合はダメ
 いかにも最高裁らしい判断ですね。

 それはともかく
 大野さんは、国労事件の際の代理人弁護士でした。

 つまり、労働組合は政治献金できるはずだ
 と論陣をはられたわけです。

 ですから、ひょっとすると税理士会も政治献金できるはずだ
 というご意見ではないかと心配したわけです。

 ですが、先の最高裁弁論の際のご対応を拝見して
 これは大丈夫と判断したわけです。

 このような運命の人たちの
 生き様が本ドラマのみどころでしょう。
 
 できればそれが
 光射す方へ向かっていればいいのですが。

               ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳