地域奉仕のいっかんとして
F中学校の職場体験授業に協力したことがあった。
中学生のころからいろいろな職業に触れ
将来の進路を明確にするという趣旨だ。
消防署や店舗などいろいろな業種の人が集まった。そのなかで
法律事務所を希望した子たち6人のめんどうをみることになった。
事務所で座学をしても分かりにくいので
法廷傍聴をしてもらうことにした。
地域の民生委員の先生たちなどを法廷傍聴にお連れすることがある。
いちばんの悩みは,博多座のように前もって演目がはっきりしないことだ。
いつ分かるかというと当日,法廷の前の掲示板を見るまでわからない。
そこに10時~貸金請求事件,原告○○,被告△△などと書いてある
こちらの気持ちとしては,できればわかりやすい事件を傍聴してもらいたい。
長くつづいている事件のうちの1期日だと,なんとことやら分からない。
そこで集合時間の15分前くらいに裁判所へ行き
裁判所のなかを行ったり来たりしながら手ごろな事件を探し回ることになる。
民事事件より刑事事件のほうがわかりやすい。民事は
「訴状のとおり陳述します。」などと書面中心だから。
刑事事件の場合,起訴状を朗読したりして
被告人だけでなく傍聴人にも事件の内容がわかりやすい。
なかでも,自動車運転過失致傷事件や覚せい剤事件は手ごろだ。
1時間のうちに最初から結審までぜんぶやることが多いから。
その日も,自動車運転過失致傷事件を選んだ。
中学生にも分かりやすく,勉強になるであろうことを期待した。
中学生たちと傍聴席につくと,被告人は男性だったけれども
裁判官も,検察官も,弁護人もみな女性であった。
中学生のうち3人は女子だったので
彼女たちにも励みになるなぁとにんまりした。
ぼくが中学生を6人連れて法廷に入っていったのだから
裁判官たちにも当然状況はのみこめたはずである。
中学生にもわかる,わかりやすい法廷
ぼくはそれを期待した。
ところがである。
審理が進むにつれ,たいへんな事態に。
自動車事故の原因は,抽象的にいえば前方不注視だった。しかし
その実態は,助手席の女性が運転手の男性にいかがわしい・・(以下省略)。
中学生たちが傍聴しているわけだから,法律家たちは
いかがわしい話をさらりと流すやり方もあったはず。
だが,検察官も,弁護人も,裁判官もいかがわしい内容について
微に入り細を穿ち,何度も何度も,尋問を繰り返したのである。
傍聴人を意識してであろう
これでもかこれでもかの大サービスだった。
でも中学生なんだから
そういうことを期待したわけじゃないんだよね。
そういうわけで
とんだ法廷傍聴になったのでした。