ある葬儀社Xからの依頼事件。自社の元従業員であったYに店舗を賃貸していた。事情があって同店舗の返還を求めたところ、当初は承諾されたが、後に拒絶された。本件は交渉のすえ裁判となった。
賃貸借契約の場合、相手方が承諾すれば終了する。合意解除と呼ばれる。本件で、Yは承諾していないと主張した。たしかに、承諾したことを裏付ける客観証拠は存在しない。
調べてみると、本件店舗ではYだけでなく、AやBも葬儀を行っているようだ。Xはこれを承諾していない。民法612条は、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。賃借人がこれに違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。と定めている。
そこでYがAやBに葬儀場を使用させているのは、本条に違反しているので、契約を解除して白紙にする、本件店舗を返還せよと主張した。
Yは、Aは自社のアドバイザーであるから第三者ではない、Bは年に数回しか利用していないから信頼関係を破壊していないなどと主張して争った。
さらに調べてみると、Aは某市の創業事業の援助を受け、独立して葬祭業を営んでいることや、Yが身内の法人の事務局をしていることなどが判明した。
そこでAが「第三者」であるかどうかを明らかにするため、Yに対し、YとAの過去の営業状態について釈明を求め、確定申告書などの証拠の提出を求めた。
提出された資料等によると、本件店舗における営業について、ある年まではYの名義で申告されていたが、その後はAの名義で申告されていたことなどが判明した。
裁判では互いの主張事実について、書証を提出するほか、人証で立証することになる。しかし本件では上記事情が明らかになったのであるから、勝訴を確信することができ、これ以上の立証は不要であると判断した。
裁判所もおなじ心証を形成したと思われ、和解を勧告し、Yは本件店舗を退去する、Xは解決金30万円を支払うとの和解が成立した。
解除権が認められないときは営業補償を含む高額の立退料を支払わなければならないので、この程度の解決金は和解をするうえでやむを得ない。かくて一件落着。めでたし、めでたし。
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