最終日、どこを訪ねようか迷った。糸魚川から小松空港の間だと、富山だとか金沢だとかが選択肢となる。
富山だと立山室堂まで行きたくなるし、金沢だと見どころが多すぎる。下手をすると、帰りの飛行機に間に合わなくなりそうだ。
迷ったすえ、やはり芭蕉『おくのほそ道』ゆかりの那谷寺を訪ねることにした。
那谷寺には芭蕉も小松から山中温泉に行く途中で立ち寄っている。『おくのほそ道』にいわく。
山中の温泉に行くほど、白根が岳跡に見なして歩む。左の山際に観音堂あり。花山の法皇、三十三所の巡礼とげさせたまひて後、大慈大悲の像を安置したまひて、那谷と名付けたまふとなり。那智・谷汲の二文字を分かちはべりしとぞ。
花山天皇は兼家・道兼父子にダマされて退位した後、傷心を慰めるためか西国三十三所の観音霊場を巡礼した。西国三十三所霊場は1番が那智山、33番が谷汲山である。
花山法皇は、この寺の岩窟で輝く観音三十三身の姿を感じた。そして観音霊場三十三か所はすべてこの山に凝縮されるとして、那智山の那、谷汲山の谷の字をとって本寺の名を那谷寺とした。
那谷寺の特徴はなんといっても奇石である。
奇石さまざまに、古松植ゑ並べて、茅葺きの小堂、岩の上に造り掛けて、殊勝の土地なり。
奇石なのだが、どこか笑い顔にみえてユーモラスである。傷心の花山法皇や芭蕉の心を軽くしたのかもしれない。
風光明媚というが、寂寥の芭蕉の心には風がとても白く感じられたようだ。北原白秋の名のとおり、秋は白いというのが古来からのお約束でもあるが。
0 件のコメント:
コメントを投稿