2024年9月26日木曜日

「待ち望まれた日」@「光る君へ」


 大雪山~トムラウシ山を長旅したり、訪問看護ステーション研修をしたりしているうちに、NHKの大河ドラマ「光る君へ」がずいぶん進行してしまった。


 ムードを盛り上げるためにNHKがやっている関連番組も興味深い。とくに曲水の宴のセットづくりの楽屋裏に潜入した100カメはとても面白かった。


 われわれは、裁判所に提出する文書について、「切れば血が出るようなものを書け」と言われることがある。そういう観点からいえば、『源氏物語』、『枕草子』をはじめ、『蜻蛉日記』、『更級日記』、『御堂関白記』、『紫式部日記』など平安時代の作品は、いささか縁遠い話のように従来受けとめていた。中世以前は別世界というし、貴族たちの書いたものであるから。
 
 しかしこの時代のことがはじめて大河ドラマ化されてみると、やはり切れば血が出るものであると感じられるようになった。やはり教科書の口絵などにより喚起されるイメージの豊富さが違うからだろう。

 道長についても、人口に膾炙した「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」という歌ばかりが想起されて鼻につくと思っていた。しかし今般いささか認識をあらためた。

 

 昨年末、滋賀県甲賀市にあるミホミュージアムを訪れた。企画展は(たまたま)「金峯山の遺宝と神仏」をやっていた。昨年末の時点では、大河ドラマに『源氏物語』や紫式部をとりあげるということについて、あまり意識はなかった。

 金峯山は、いまでいえば吉野山~山上ヶ岳あたり。世界遺産に認定された大峰奥駆道の北部だ。弥勒菩薩が生まれる場所であり、役小角が修行中に蔵王権現が示現した場所でもある。斎戒沐浴して登れば願いがかなうとされていた。 

 金峯山の遺宝のなかには、藤原道長の経筒(日本最古の経筒。国宝)や道長筆の埋経(金字で写経したもの。重文)があった。昨年末の時点では、道長といえば「この世をば我が世とぞ思ふ」人物であるから、極楽浄土に行けるよう部下どもに命じて埋納させたものだと思っていた(個人の感想です。)。

 今般、ドラマを見ていて、道長が自ら苦心惨憺はるばる京都から訪れたものであることや、時期が彰子懐妊の前年であること、彰子懐妊を願ってのことであることなどが分かった。かくて娘や孫をもつ父親どうしとして、道長と仲よくなったような気がした。


 前回の「光る君へ」は「待ち望まれた日」だった。道長が倫子に彰子懐妊を伝える場面に始まり、紫式部が出産記録係を命ぜられ、安産祈祷、無事出産、50日の祝い。いささかベタな展開。と思っていたら・・・

 番組の最後に現代とのつながりを解説するところ。『紫式部日記』にこれら場面が記述されていますと解説があった。あっ、そうか。

 式部の日記は冒頭から中宮の懐妊・出産のことばかりが記述されている。中宮つきの女房であるとはいえ、いささかヨイショがすぎるのではないかと、これまで思っていた。

 しかし、33歳の式部が記録係を命じられていたと考えると、そうでもない。ベタな展開も日記に書いてあるとおりやんと思えば、紫式部の栄えある気持ちに気持ちよく共感することができたのだった。

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