2024年9月27日金曜日

ハラスメント研修@顧問企業

 

 顧問先企業のご依頼で、職場におけるハラスメント研修を予定している。

 中小企業においても、職場における①セクシャルハラスメント、②妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、③パワーハラスメントなどを防止することが義務づけられるようになった。これもまた厚生労働省の守備範囲である。

 ハラスメントとは、いわゆる嫌がらせのことである。相手を不快にさせる、尊厳を傷つける、不利益を与えるなどの行為全般をいう。

 古典的な違法行為は、相手に対する物理的・身体的暴力だった。モーセの十戒のなかにはないけれども、殺してはならない、盗んではならないなどと並び、古くから共同体の禁止事項だったと思われる。暴力が横行するような共同体は維持・発展が困難だろうから。物理的・身体的暴力は外形的にはっきりしているから、誰の目にも分かりやすい。

 そのうち、手は出さないけれども、あの発言はひどい、あの言い方は人を傷つけるというものも問題とされるようになった。言語的・精神的なものでも、物理的・身体的暴力と同視できるものがある。つまり、それらも違法行為とされるようになった。

 違法行為の範囲が広がったのはよいが、今度はどこまでがよくて、どこまでがよくないのか境界が不明確になった。そのため、ハラスメントとは?について、長々しくて難しい定義がなされている。

 厚生労働省による、セクシャルハラスメントの定義は、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることとである。

 同じくパワーハラスメントは、次の3つの要素をすべてみたす言動と定義されている。
①優越的な関係に基づいて行われること
②業務の適正な範囲を超えて行われること
③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

 研修の性格上、ハラスメントの定義を説明するところからはじめることになるだろう。が、このような難しい定義を聞かされると、それだけで思考停止してしまいそうだ。毎日の職場で使えるものでなければならないから、こんな複雑なものは使えないように思う。

 なぜ複雑な定義になっているのか。定義を定めるとなると、過去の裁判例等を収集・整理して、ハラスメントと認められたものの最大公約数を抽出することになる。その場合、ハラスメントではないものを排除していくから、どうしてもものごとの中核でなく、外延の線引き作業になってしまう。

 たとえば、①平社員どうしの口喧嘩はパワハラではない。なぜなら、優越的な関係に基づいて行われていないから。
②課長の業務命令は原則としてパワハラではない。業務の適正な範囲を超えた場合にかぎりパワハラとなる。
③の要件は、一般人を基準とするとされる。当該言動に精神的な苦痛を受けたと訴えても、一般人がそう感じないのであれば、パワハラから除外されるのである。・・・

 しかし、これでよいのだろうか。思うに、ハラスメントが問題にされる場面には段階がある。①当該言動がなされ、労働者が精神的苦痛を受けた場面、②当該言動を受けた者が同僚などに相談する場面、③当該言動を受けた者が相談窓口に相談し、相談窓口が調査する場面、④当該言動を受けた者が裁判所に訴え、裁判官が判決を書く場面など。

 厚生労働省の定義は、過去の裁判例等を収集して抽出したものであるから、④の場面のものである。しかし、それでは狭すぎる、あるいは、そこまで行ったら遅すぎるのではなかろうか。問題とすべきは①の場面である。事件は現場で起きているのだから。

 図式的に言えば、上司が職場でセクハラ発言をして、10人の部下の働くモチベーションが40パーセント下がったら、企業としては損失だろう。1人当たりの平均年収は458万円であるから、その40パーセントである183万円もの損害に発生しているといえなくもない。部下10人の職場であるから、企業としての損失は年額1830万円にも及ぶ。

 企業としては、このような損害を回避するためにも積極的に対策をしたほうがよいと思う。それで働きやすい職場になるのであるから、従業員にとってもハッピーである。

 ただし、上司はたいへんである。一方で、企業からは業績の達成を要求される、他方で、それをそのまま業務命令として部下に伝えたらパワハラと言われかねない。つまり、パワハラと言われないよう部下とうまくコミュニケーションをとらなければならない。

 そうした工夫がコーチングや1on1ミーティングなどのコミュニケーション手法なのだろう。コーチングとは、相手の話に耳を傾け、観察や質問、ときに提案などをして相手の内面にある答えを引き出す目的達成の手法である。1on1ミーティングとは、文字どおり、定期的に上司と部下が1対1で話し合うことをいう。

 厚生労働省に言われてハラスメント研修をするより、これらコミュニケーション手法の研修を行ったほうがより生産的だと思うのだが、どうだろう?

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