『一瞬でいい』唯川恵・集英社文庫を読んだ。流行作家の小説は読まなくなったのだけれど、先輩が読んだというので。
1973年11月、18歳の高校生4人(男女2人ずつ)が初冬の浅間山に登り、うち男性一人が遭難してかえらぬ人となった。その喪失感を抱えながら、大人へと成長していく残された3人の人生を描く。
弁護士をしていると、他の人々より死は身近だ。交通事故や薬害で父母や子を亡くした人々の話を聞くことが多い。初7日、49日、一周忌など時間が解決していくことも大きい。加害者に損害賠償をするなかで、心の整理をしていく人もいる。
ともに山に登った仲間が死ぬとなると自責の念から逃れられないのはよく分かる。あそこでこうしておけば、ああしておけばという選択ミスが心をさいなむからだ。
しかし山に入る以上、一定のリスクは覚悟のうえだ。心身にあいた欠落をなんとか埋めて克服していくほかない。
この本の解説は女性登山家の亡谷口けいが書いている。登山界のアカデミー賞といわれるピオレドール賞を世界で初めて受賞した女性登山家である。
「より深い足跡が刻まれていれば、その一瞬を誰よりも強く踏みしめて生きたってことの証になる」
その谷口けいも10年前、大雪山黒岳で滑落して無くなった。43歳。
ついこないだのような気がするが、もう10年もまえのことになってしまった。