2025年7月3日木曜日

婚姻費用分担・離婚調停(1)

 

 離婚調停2件が不成立に終わり、どちらも婚姻費用のほうだけ解決をみた。

 ひとつは、以前にも報告をしたと思う。夫側から依頼を受けた事件。

 幼児2人の4人家庭で、母が子2人を連れて実家に帰ろうとしたので、父から受任して、母にたいし無断で連れ帰ってはならない旨の手紙を渡したところ、母一人が実家に帰ってしまった事案。

 離婚調停のほか、子の監護権と身柄の引渡しを求める仮処分と審判を求められた。幼児のばあい、日本ではいまだ母親の監護が優先するとされている。一般には、母を監護権者とすることが多い。

 しかし、本件では母がひとり実家に帰ってしまったので、幼児たちはこちらの実家で監護していた。こちらはその実情を尊重してほしいと訴えた。

 幼児たちの実情を調査官が調査した。家裁における事実認定は、証人尋問ではなく、調査官調査によることになっている。その結果、父のもとで養育監護することが望ましいとの調査結果が報告された。裁判官はこれを踏まえて、父を監護権者とする決定をくだした。

 離婚調停では、離婚については互いに異論はなかったので、残る論点は、親権者の指定、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料。それとともに婚姻費用分担。

 離婚調停では、離婚とともに婚姻費用分担調停を申し立てることが一般である。要は、妻や子どもたちの生活費。離婚成立までを婚姻費用と呼び、離婚後を養育費と呼ぶ。離婚までは妻の生活費が含まれている。

 離婚調停における兵糧攻めを避けるため、まず、婚姻費用分担調停を先行させることが多い。本件では、子どもたちの監護権者・親権者の帰趨が問題になったので、婚姻費用問題はそれが決してからとされた。

 監護権と親権のちがいは、ざっくり言って、子どもたちにたいする事実上の監督権が監護権で、法的な監督権が親権である。仮処分と審判で、父を監護権者と定める決定がでた以上、親権も父とされる可能性がほぼ100%である。

 通常であれば、親権者を父として、離婚調停を成立させることになるだろう。しかし、母は納得せず、離婚調停は不成立に終わった。婚姻費用分担調停だけは、最高裁の養育費算定表にしたがい、こちら側が若干の支払いをすることになった。

 調停は不成立に終わったので、妻側から離婚裁判へ移行する可能性がある。ただそれも敗訴確率がたかいので、なにもなされないまま時間が経過するという可能性もある。そのときは夫側から提訴しなければならないかもしれない。しばらくは様子見である。

2025年7月2日水曜日

『一瞬でいい』唯川恵・集英社文庫

 

 『一瞬でいい』唯川恵・集英社文庫を読んだ。流行作家の小説は読まなくなったのだけれど、先輩が読んだというので。

 1973年11月、18歳の高校生4人(男女2人ずつ)が初冬の浅間山に登り、うち男性一人が遭難してかえらぬ人となった。その喪失感を抱えながら、大人へと成長していく残された3人の人生を描く。

 弁護士をしていると、他の人々より死は身近だ。交通事故や薬害で父母や子を亡くした人々の話を聞くことが多い。初7日、49日、一周忌など時間が解決していくことも大きい。加害者に損害賠償をするなかで、心の整理をしていく人もいる。

 ともに山に登った仲間が死ぬとなると自責の念から逃れられないのはよく分かる。あそこでこうしておけば、ああしておけばという選択ミスが心をさいなむからだ。

 しかし山に入る以上、一定のリスクは覚悟のうえだ。心身にあいた欠落をなんとか埋めて克服していくほかない。

 この本の解説は女性登山家の亡谷口けいが書いている。登山界のアカデミー賞といわれるピオレドール賞を世界で初めて受賞した女性登山家である。

 「より深い足跡が刻まれていれば、その一瞬を誰よりも強く踏みしめて生きたってことの証になる」

 その谷口けいも10年前、大雪山黒岳で滑落して無くなった。43歳。

 ついこないだのような気がするが、もう10年もまえのことになってしまった。