2025年10月17日金曜日

ある遺言無効確認請求事件(勝訴)

 

 ある遺言無効確認請求事件に勝訴した。

 遺言者は、令和3年9月に亡くなった。子どもは3人、うち長男は亡くなっており、二男と長女に遺産を相続させる旨の遺言をのこした。長男の子(以下、原告という。)が二男と長女を相手に遺言無効確認請求の裁判を起こした。

 遺言は3通あった。平成29年5月作成の第1遺言、平成30年5月作成の第2遺言及び令和3年5月作成の第3遺言である。第3遺言は公証人が作成した公正証書遺言である。

 原告の訴状によれば、これら遺言が無効である理由としては次のとおり。①作成当時、遺言者が100歳超の極めて高齢であったこと、②令和元年11月、認知機能テスト(長谷川テスト)で30点満点中8点であったこと、③同年12月、要介護認定を受けた際の診断書に、日常の意思決定を行うための認知能力について判断できない、自分の意思の伝達能力について伝えられないとされていること、④アルツハイマー型認知症は進行性の病であること、⑤これら認知症の症状は、平成10年ころから見られるようになったこと等である。

 遺言無効確認請求事件は、むかしからあったと思われるが、近時その争いが先鋭化しているのは、介護保険制度の施行が背景にある。制度前は、遺言能力に疑義があったと考えたとしても、これを裏付ける診断書の入手は困難であった。

 しかし、介護保険制度後は、要介護認定を行う際、医師の診断を受けることになっている。その結果、認知症高齢者の日常生活自立度、認知症の中核症状、認知症の行動・心理症状等について、詳細な診断書が存在することが多い。

 認知症の主要な診断基準としては、米国精神医学会のDSM-5、世界保健機構によるICDー10などがある。厚生労働省は、これらに基づき、介護保険を運用し、上記のような診断を要求している。

 同じく重要視されるべきは、民法の定める成年後見人制度である。成年後見人は、本人に財産管理能力が無くなったときに選任されるものであるから、そこで定める基準は参考になる。

 さらに、公証人が公正証書遺言を作成する際、遺言能力に疑義がある場合の要件というのもある。

 本件各遺言が有効であるのか無効であるのかは、これら各基準を参考にしながら検討されなければならない。

 判決は、①令和元年11月及び12月の状態は、長期入院の影響による一時的なものであること、②その後の回復傾向、③公正証書遺言作成時における遺言者の状況等を踏まえ、本件第3遺言は無効ではない旨判断した。

 複数の遺言が存在するばあい、最新のものが有効であればそれによることになる。それ以前の遺言については、その有効性を判断する必要はない。第1及び第2遺言の無効を求める請求は却下された。

 かくて、ある遺言無効確認請求事件に勝訴した。

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