2017年12月7日木曜日
消滅時効~民法改正,筑紫野市の弁護士の解説(2)
(天竜寺の紅葉)
民法の構成は,総則,財産法,親族・相続法となっていて,財産法は物権法と債権法にわかれます。こんかいは債権法の改正となっています。しかし,前回説明したとおり,債権法は財産法のなかの債権法だけを見て解決することができません。パンデクテン方式により,物権法と債権法に共通するルールは総則として定められていることになっています。なので,債権法の改正といっても,総則の改正にも及んでいます。消滅時効の改正はその一つです。
民法総則は,通則,人,法人,物,法律行為,期間の計算,時効からなっています。さらに,時効は,総則,取得時効と消滅時効からなっています。
民法は,権利/義務の発生,変更,消滅の要件を定めた規定からなっています。権利/義務は,裏表の関係です。以下,権利,あるいは債権と表記します。消滅時効は,権利の消滅に関する規定です。
消滅時効は,権利を行使することができる時から進行します(民法166条1項)。これを時効の起算点と呼びます。
一般的な債権の場合,10年で時効が完成します(民法167条1項)。AさんがBさんに10万円を貸しましたというような場合です。
Aさんとしては,期限から10年以内に債権を行使しないと,消滅時効により債権が消滅し,権利が行使できなくなります。
ただし,債務者が時効の利益を得ようとすれば,時効の援用が必要です(民法145条)。
他方,債権者が時効を避けようとすれば,時効中断措置をとる必要があります。時効中断には,請求,差押え,承認があります(民法147条)。
請求については,商売人の間によく見られる誤解があります。毎年,年末に請求書を送っているので,自社の売掛金は時効にかからないという誤解です。このような催告による請求は,その後6か月以内に裁判を起こさなければ中断の効力を生じません(民法153条)。つまり,時効完成前6か月間だけ,期間を延長する意味があるにすぎません。なお,請求書の送付も,一般郵便だと債務者に争われて証明できないかもしれません。争われそうな案件では内容証明郵便にするほうが安全でしょう。
承認については,「承認します!」という積極的なものは必要ありません。内金の支払いなどは債務の承認とされています。問題は,時効完成後の支払いです。時効の援用をしないで支払ってしまうと,時効の利益がなくなってしまうと解されています。
さて,本題に入ります。先の一般規定10年の例外として,いくつかの短期消滅時効の定めがあります。いちばん利用頻度が高かったのが商事消滅時効で,5年です(商法522条)。サラ金会社からの借金などはこれによります。また,労働審判につきものなのが,労働基準法の規定による賃金等の消滅時効で2年です(労働基準法115条)。
これ以外に,民法には従来,多数の短期消滅時効の定めがありました。定期給付債権が5年(民法169条),医師等の診療等に関する債権が3年(民法170条),弁護士等が職務に関して受け取った書類の返却が3年(民法171条),弁護士等の職務に関する債権が3年(民法172条),生産者等の売掛金が2年(民法173条)などです。
確定判決によって確定した権利については,短期のものでも,10年になります(174条の2)。
これら短期消滅時効を全部記憶することはなかなかに困難です。しかも,これら債権の種類が明治時代の言葉で書かれているため,解釈に困ることも少なくありませんでした。実務上も,種々のトラブルを見聞きしました。
そこで,今回の改正ではこれらについて,一律,債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間,権利を行使することができる時から10年間に変更されました。
細かな短期時効を記憶する手間は省けるようになりましたが,一般的な債権についても短期5年になりましたので,うかうかしていると債権を失うことになります。みなさん,ご注意ください。
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