『沈黙の町で』(朝日新聞出版)
奥田英朗さんの新作。
『噂の女』が出てから
さほど経っていない。
よくこんなに書けるものだ。
筆力がすごい。
いつもながら,個々人ではなく
地域社会そのものが書かれている。
朝日新聞に連載していたものを
単行本にしたもの。
新聞小説だけあって
冒頭からぐいぐいひきこまれる。
高校生男子の死体が
校内で発見された。
容疑者として
4人の遊び仲間が浮上する。
警察,検察の捜査がすすむなか
真相は?
物語はなかほどから
意外な展開をみせはじめる。
高校生の殺人(傷害致死を含む。)事件の付添人を
3度ほどつとめたことがある。
ひとたび死体が発見されると
住民全体が不安と怒りにとらわれてしまう。
地域社会には
非常な重圧がかかる。
この重圧が地域社会をいつもと違う雰囲気でつつみ
人々の判断を狂わせがちだ。
むかし西部劇で共同体の敵にリンチをおこない
裁判を経ないで死刑にしたりする場面があった。
たとえは適切でないかもしれないが
あんな感じだ。
だからいつまでも犯人がつかまらないと
怒りの矛先が捜査機関に向くことになる。
捜査機関としてはとにかく犯人を検挙して
有罪にもちこむ必要がでてくる。
これがまたえん罪を
うむ温床になってしまう。
もうそれは個々の人の冷静な判断を
蹂躙するほど強烈なものだ。
奥田さんの著作は
いつもほんとうにリアリティを感じる。
本作も人々の動きが
いずれも説得的だ。
しかし社会を突き動かす異常なエネルギーについては
かなり押さえた筆致になっている。
ノンフィクションなえん罪小説ではなく
文芸的な作品にするために必要な修正だったのだろう。
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