2011年2月9日水曜日
春の女神とアドニスと金星
村上春樹さんの「ノルウェイの森」に
18歳の年の僕にとって最高の書物はジョン・アップダイクの
「ケンタウロス」だった…。
とあることから「ケンタウロス」をぜひ読みたいと思ったところ
残念ながら絶版中でした。
Amazonで検索すると3566円で古本がでており
(けっこうなお値段にひるみましたが)買いました。
「ケンタウロス」の舞台は、現代アメリカの田舎町と
ギリシャ神話のオリンポスのハイブリッド。
物語の途中で、いつの間にかオリンポスの世界になったり
いつの間にか現代アメリカに戻ったり。
「ノルウェイの森」の執筆はギリシャ等でなされているので
村上さんの頭のなかもギリシャの神々が行き交っていたことでしょう。
ギリシャ神話の親分はゼウス、その親分からして異常に好色な神なので
ギリシャ神話全体がどうしてもエロチックにならざるをえません。
それを現代アメリカ社会にもちこむのですから
「ケンタウロス」もいい感じにエロチックです。
うっかり読んでいると、主人公の高校教師コールドウェル(ケイロン)は
校舎内を歩いていたはずなのに…
ヴェラが蒸気に包まれて目の前に立っていた。青いタオルが体からなまめ
かしくずり落ちると、琥珀色の陰部が露のしずくに白く光っていたっけ。
「わたくしの兄のケイロンはなぜサテュロスのように口をあけたまま立っ
ているのでしょう?神々の姿はケイロンも見なれているはずですのに。」
「女神アプロディテよ。」
…という具合に、おなじ高校の女性教師ベェラがたちまち
愛と美と性を司る女神アフロディテに変身してしまいます。
アフロディテは生殖と豊穣を司り
ということは春の女神でもあります。
わが法律事務所では年2回
春と夏にニュースを発行しています。
今春号はご遺族のご厚意で小川蓮太郎先生の画を2枚
掲載させていただきました、そのうちの1枚が「アネモネ」。
アフロディテはアドニスの美しさに惹かれ、かわいがっていたところ
彼は狩猟の最中に野猪の牙にかかって死んでしまいました。
女神は嘆き悲しみ、自らの血をアドニスの倒れた大地に注ぎ
その地から芽生えたのがアネモネです。
ひとつの花の由来さえ、このように
美しく説明する古代ギリシャ人の感性に親近感をおぼえます。
古代ギリシャ人たちがアフロディテと呼んでいた神を
古代ローマ人たちはヴィーナスと呼びました。
古代ローマ人やヨーロッパの人々がキリスト教を信仰するようになり
異教となったギリシャ・ローマの神々への信仰は廃れました。
ギリシャ・ローマの神々が再生(再誕生)したのはルネッサンス期
ボッティチェリは「ヴィーナスの誕生」を描きました。
先ほどのケイロンがアフロディテと遭遇した場面も
「ヴィーナスの誕生」を彷彿とさせます。
おなじく「春(プリマベーラ)」もまたヴィーナスを中心に描いたもの
どちらもフィレンツェのウフィッツィ美術館でみることができます。
ボッティチェリ(1445-1510)はガリレオ(1564-1642)より1世紀以上
前の人ですから、異教の神を描くことにかなり勇気がいったと思います。
それでもボッティチェリがヴィーナスを描いたのは
その愛と豊饒の力に魅せられたからでしょうか?
昨年、事務所のメンバーで神戸に行ったさい、
夜景をみようということになりました。
ビュー・ポイントを地元の人に尋ねると、
「キンセイダイ」という人と「ヴィーナスブリッジ」という人と…。
迷ったすえに「キンセイダイ」に言ってみると「ヴィーナスブリッジ」と
おなじところでした。
金星台とは神戸市中央区の諏訪山にある展望台。ここと諏訪山展望台を繋ぐ
螺旋橋の愛称がヴィーナスブリッジ。
1874年にフランスの天体観測隊が、金星の太陽面通過の観測をこの地で
おこない、それにちなんで命名されたとのことです。
ギリシャ・ローマ神話の素養がしっかりしていて
金星=ビーナスとピンとくれば、簡単にとけた謎でした。
というわけで、ジョン・アップダイクの「ケンタウロス」
(古本ですが)ご一読ください。
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